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「あら綺麗なお嬢さん、この花が好きなのかい?」
「ええ、ひとつください」
レイシア嬢とボクは露店が並ぶ通りで買い物をしている。
「マルケスの花です」
店主が包装用の麻袋を準備している間にレイシア嬢がボクに教えてくれた。
マルケスの花、この国の山林部に生息している赤い花だそうだ。
周囲を警戒しつつもボクは彼女の横顔を盗み見る。薄い唇に白くしなやかな項、そして透き通るような空色の瞳。
「花言葉は……」
愛の告白──身分が違いすぎるボクはレイシア嬢へ恋慕の情など持ち合わせてはいけない。湧き出そうになる感情をぐっと抑え込む。
マルケスの花を買った彼女は満足そうな表情をしている。
露店で売っている食べ物を食べ歩きして喜んでいる彼女をみてると普通の町娘のように思えてくる。
ここから直接バゲイラ邸に向かうことになった。
昨日は気分が優れないという理由をつけて、面会しなかったそうだが、別宅を借りている手前、さすがに二日続けて断るわけにもいかない。
「レイシア様、久しいですな」
「ええ、ご健勝で何よりですバゲイラ殿」
これは想像を超えた人物が現れた。あまり人の容姿をどうこう言いたくないが、蛙の化け物という言葉がしっくりくる風貌。
食卓へ案内され、レイシア嬢が腰を下ろし、ボクは彼女の背後、少し離れて目立たないよう警備に当たる。食事が始まったが、レイシアは相手の話を最小限に抑えるよう誘導してなんとか食事が終わった。
「貴女にプレゼント用意しまでゅ……失礼、用意しました」
レイシア嬢の好きな花を知っていたのか、指をパチンと鳴らすと使いの者がいくつかの扉から現れてレイシア嬢のテーブルへマルケスの花を一輪ずつ置き、まるで花束のように積み重ねていく。
「お心遣いは有難いですが結構です」
「でゅ……そうですか、喜ぶと思ったのですが、残念です」
レイシア嬢は廊下にでるとひとり言のように呟いた。
「私、マルケスの花束は嫌いなの……」
その理由はボクがこれまで考えたこともないような答えだった。
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