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「いい加減にしろ。このような場所で寝食するとは堕落にもほどがある。美栄子も草葉の陰で泣いておるに違いない」
仕事を終えて帰宅し、玄関を開けた途端にかけられた男の声に、わたしは立ち尽くした。
年のころは三十歳そこそこ。サラサラ直毛の短髪、理知的で整った顔をしているが、放たれた言葉は妙に時代がかっていて、ちぐはぐ感が否めない。
いや、そもそも誰。
美栄子って言ったな。
ってことは、おばあちゃんの知り合い?
亡くなったわたしの祖母は非常に顔が広いひとだった。
学校の先生をしていて、退職後も実績を乞われて地域の学童や塾でも先生をやっていたので、この付近には祖母の『生徒』が非常に多い。
あれから半年以上経過しているが、喪中ハガキを出したことで知って訪ねてきたパターンかもしれない。
だからって、なんで鍵のかかった屋内に居るんだ。
「どちらさまですか?」
こんなときでも妙に冷めた態度の自分に呆れながら相手を見つめていると、男は腕組みをして顎を反らせ、不遜そのものの態度でこう言った。
「私はこの屋敷に住まう付喪神である」
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