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冷蔵庫からペットボトルの緑茶を取り出す。すこし悩んだ末、お客様用の湯飲みに淹れて男の前にそれを置いた。
「茶を供するという素養があったことは褒めてやらんでもないが、いささか粗雑すぎやしないか朝子よ」
「それはどうも」
ちっとも褒めているように聞こえない声色でお茶を呷るのを眺めながら、わたしはわたしでお茶を飲む。
「えーと、それで、ツクモさん。祖母はもう亡くなりましたが、わたしに御用があるんでしょうか」
「幼きころから胆の据わった子であったが、その度胸は健在か」
「いえ、驚いてはいますよ。ほんとに居たんだなーって」
「なら驚け。私はヒトならざる者だぞ」
「だって、おばあちゃんから聞いてましたし」
そうなのだ。
見たことはないけれど、存在だけは聞かされていた。
なんでも、城崎家の長女にのみ視認可能らしい。
外見の性別は男。いつ姿が見えるようになるかはわからない。
しかし結婚すると見えなくなるのは確定事項。
既婚者となってもたまに声は聞こえるので、存在は感じられる。
悩んでいたり困っていたりすると助言をくれる守護神的なもの。
以上が、ツクモさんの基本情報だ。
わたしはひとりっ子で、三十五歳独身彼氏なしだけど、これまで姿を見たことはない。「うちの女性には付喪神が味方しているんだよ、朝ちゃんもいずれ見えるようになるよ」と言われていたけれど、正直なところ、微妙だと思っていた。
いや、べつに信じてないわけじゃないんだよ。
ただわたしは城崎朝子ではあるけれど、祖母とは血が繋がっていないから、対象外なんじゃないかなって思ってたんだ。
血が途切れているのは、わたしの母親が祖父母の知人夫婦の子どもだったから。
どんな紆余曲折があったのかは知らないけれど、母は城崎京子になり、絵にかいたような転落人生を送ったあげく、実家にわたしを置いて行方知れずとなったようだ。
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