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プロローグ
夢の中ではいつもひとりだった。
薄暗い霧に包まれた空間で、視界はわずか数メートル先にしか及ばず、その中には広がる何もかもが朧げに見えるだけだった。
繰り返し同じ夢を見ている日々が続いているが、この空間が果たしてどのような構造になっているのか、どこまで広がっているのかもまだ分かっていない。
空間内では不安と孤独に包みこまれて足が竦み、いつも歩いて霧の中を探索することが出来ずにいた。
このような夢がずっと続いているのには何かしらの意味や目的があるかもしれない。
なぜこのような夢を見るのか、どうしてこの場所に閉じ込められているのか。
ある日、いつもはない周囲の霧を照らすオレンジ色の光があり不思議な雰囲気を醸し出していた。
行ってはいけないと自分の内側にいる何かが警告をしていて不安で仕方なかったが、同時にそこに行けば夢の正体が見つかるかもしれないという好奇心で彼女を駆り立てた。
一歩一歩ゆっくりと歩みを進めて、あと数歩で辿り着きそうな距離になった。その時、明かりは突然消えた。すると、霧の中からぼんやりとした影が現れ、彼女に手を差し伸べている。
「ついてきて」
彼女は今まで夢の中で自分以外の存在に出会ったことがなかった為、混乱で戸惑いを隠せなかった。差し伸べている手は見えてはいるが、その正体については薄暗い霧で見えなかった。
不思議な魅力があり、その影に引かれるように近づいていこうとするが、突然足が竦んで歩けなかった。
手を差し伸べていた影は、その手を下ろして立ち去ろうとし始めた。
「迷い込んだ者は、二度と戻れないのだ」
その日はその言葉を最後に目が覚めたのだった。
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