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5
「文句を言いに来たんですよ」
晴れ渡った空を眺めながら彼女は「ほう」と声を発した。
「それだけのためにわざわざこんなところまで?」
「はい。やっぱり割りに合わないと思ったので」
ブルーのジャケットとパンツを身に纏う会長は苦笑いを浮かべた。
彼女の右胸には『JAXA』のロゴがある。比良川星生徒会長改め、比良川星宇宙飛行士と呼ぶべきかもしれない。
まだ訓練生だよ、と注意されるかもしれないが、彼女のことだからそうなるのも時間の問題だろう。
「まあでもある程度の予想はしていたよ。過去は未来に繋がってしまうものだからね」
「予想してたのに潰さなかったんですね」
「嬉しそうに言うねえ」
違和感はあった。
トロフィーや賞状が無くなったくらいで彼女の伝説が途絶えるわけがない。データ類は残ってるだろうし、計画に穴がありすぎる。
そもそも彼女が本気で消えようとしているなら誰にも邪魔なんてできない。わざわざ僕に頼む必要なんてないはずだ。
それに、彼女は世間のバイアスなんか気にするほど弱い人間なわけがなかった。
つまりあの頼み事は挑戦状だったのだ。
──私の過去を全部集めて、私の未来へ辿り着けるかな? と。
「そりゃそうですよ」
嬉しいに決まってる。
僕だけは未来に連れて行ってもいいと思っていたということなのだから。
喜びが顔に出てしまいそうだったので僕はぐるりと辺りを見回した。
筑波宇宙センターの正門をくぐってすぐの広場には大きなロケットが横たえてある。僕たちはそのロケット広場の片隅の白い柵にもたれていた。
彼女の獲得したトロフィーや盾はすべて関東で行われた大会のものだった。ここを訪れるついでに参加したのだろう。
「けど進学もせずに宇宙飛行士になるなんてほんと化け物ですね」
「相変わらず失礼な後輩だな」
「やっぱり僕はあなたの後を務められる気がしません」
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