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玄関を入って靴を脱ぎ、そのまま自分の部屋に向かった。
ここまで来ればその必要もないのに、僕は息を潜めて足早に階段を上る。
「……ふう」
自室に入って、ようやく息をついた。カーテンを閉めたままの部屋は薄暗いが明かりはつけないままクローゼットへと向かう。
クローゼットの扉につけられた小さなダイヤル式の南京錠を外すと、中には賞状やメダル、トロフィーなどがずらりと並んでいた。光の少ない空間でも黄金色の輝きが鈍ることはない。
一度、扉のほうを向く。
外に人がいる気配がないことを確認して、僕は肩にかけたままの鞄のチャックを開けた。じじじ、と音が鳴り、開いた口から金のサッカーボールの半球が埋め込まれた盾を取り出す。
ずしりと重い盾を素早くクローゼットに並べて眺める。
「今度はサッカーか。ほんと底知れないな」
僕は唇の端で苦笑しながらトロフィーの隣に飾られている新聞記事に視線を移す。それは書道コンクール大賞者のインタビュー記事だった。
小さな文字の隣に、美しく微笑む女子生徒の写真が大きく載っている。
「会長」
小さく呼びかけるように僕は呟いた。
写真の女子生徒はもちろん何も話さないが彼女の声は簡単に蘇る。
「あと少しで終わりますから」
耳の奥で聞こえた声にそう答えて僕はクローゼットの扉を閉める。
輝かしい彼女の過去をまたひとつ、南京錠で閉じ込めた。
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