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いくら悪態をついたところでこれからやることは変わらない。荻は頭の中で代表スピーチの内容を思い出す。
鳶尾の替わりに原稿を考えたのは荻だ。鳶尾が忘れてもいいように暗記した内容がこんな時に役に立つとは。荻は覚悟を決めると慌ただしく屋上から飛び出した。
その後ろ姿を1人の女子生徒が見ていた。
茶色の巻髪につけまつげは長く、カラコンをつけた瞳には誰もいない屋上が映っていた。口元に当てた指先には赤と白のネイルが光る。指定の制服のスカートは限界まで短く、履いているのは膝までの白のルーズソックス。
校内で彼女と同じ格好の生徒は1人もいないだろう。それどころか、彼女を見ることのできる人すら限られている。
荻は彼女に気づかなかった。いや、気づけなかった。
「なにあの人。一人百面相とか鬼ウケるんですけど」
彼女はそう言うとゆっくりと姿を景色へと同化させ、消えていった。
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