1.屋上とギャル

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 人の輪のなかでは笑顔で気さくに振る舞う荻も1人になればネガティブな言葉が口からもれた。  昼休み。荻は集まる人の輪を器用に抜けて屋上へと戻ってきていた。朝と同じく屋上には荻以外の人は見当たらない。  それとなく教師陣に訊いた結果、屋上は立ち入り禁止らしい。それは荻にとって都合がよかった。自分以外の人がいない空間というのは貴重だ。  荻の周りにはいつも人がいた。荻は鳶尾の隣にいるからだと思っているが、それは半分違う。集団の中には荻を目当てにいる人が半分、鳶尾目当てが半分なのだ。  鳶尾が入学していない今、荻の周りには荻を慕う人間だけが集まっている。しかし、学生生活に興味のない荻がその事実に気づくことはない。 「海外行くなら俺も連れてけよ、馬鹿」  荻と鳶尾は生まれた時からずっと一緒だった。  お互いひとりっこ。家の繋がりで決められた運命だとはいえ、荻も鳶尾もお互いを兄弟のように思っていた。  同じ歳だが、鳶尾の世話をするように言われた荻は兄のように振る舞い、どこへ行くにも共にしていた。
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