1.屋上とギャル

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 鳶尾が1人でどこかへ行ってしまうのはいつものこと。好奇心旺盛の鳶尾は気になることがあれば徹底して調べる。知識もあり頭の回転が早く、幼い頃から神童と言われていた。  そんな鳶尾が荻は誇らしかったし、側にいるのが心地よかった。だけどこれだけ遠くに行ってしまったのは初めてだ。  荻は初めて1人になった。鳶尾のことだけ考えればよかった生活が急に消えてしまい、荻は途方に暮れてしまった。  グラウンドを見下ろすと、サッカーボールを蹴る生徒や、走る生徒、端の方には弁当を食べる生徒も見えた。どの生徒も楽しそうに笑っていて、荻には別の世界の人間に見えた。  荻には友達となにかを楽しむ、という行為が理解できない。社会にでれば周りは全て敵。己の力のみで這い上がれ、というのが荻家の家訓だ。  小さい頃から叩き込まれた思想はいつの間にか荻にとっての常識になっていた。だから、いずれライバルになるだろう友達を作るという行為が荻には理解できない。  表面上はクラスメイトと仲良くなれても、鳶尾以外に心を開けたことは1度もなかった。仕える主人はいないし、自分の人生を大事にしろと言われても困る。  となれば荻がすることは決まっていた。
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