1.屋上とギャル

9/17
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
 女子生徒は足音をたてずにすーっと荻の目の前まで移動してくる。目と鼻の先にある女子生徒の顔も近くで見ると透けていた。  女子生徒の背後には薄汚れた屋上の扉が見えた。異様に長いまつ毛は、彼女が瞬きをする度にバサバサと音をたてる。  透けて見えるのに音はちゃんと聞こえる。グラウンドからの元気な生徒の声と、女子生徒の声に違いはなかった。 「なっ……」 「ちょっと無視はさすがにキツいって。やっとウチのこと見える人に会えたのにー。ねぇ、声も聞こえてるよね? さっき答えてくれたもんね!」  女子生徒はふわふわと荻の前で浮かび始めた。両手を握ってパタパタと上下に振る姿はクラスメイトと変わらない。  ただ違うのは女子生徒が透けていること。  ただ、それだけだ。荻は気が遠くなりかけた。16年間生きてきて初めての体験だ。  夢なのかと思い、黙って自分の頬を叩くと痛い。  そう、これは現実だ。 「ねぇってば!」 「聞こえてるから耳元で騒ぐな!」  荻は我慢できずについに彼女に返事をしてしまった。しまったと思ってももう遅い。彼女は目を輝かせて荻に詰め寄った。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!