歌姫の憂鬱

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「一回合わせようか」 ソーニャがピアノに座り、ピアノを奏でる。ターニャはフルートを吹く。フョードルがドラムを叩く。ピョートルが打楽器を構える。マルチナが歌い始める。 マルチナの声は魅力的だった。どこか掠れたハスキーボイスだがよく通る。この声に気づいたのはアンナだった。 このバンドはアンナが考案したものだ。ただ酒や食事を提供するだけではつまらない。歌や演奏くらい提供してもいいだろう。マルチナがステージに立ち始めたのは十七才のときだった。 「大丈夫よ!頑張りましょう」 フョードルがドラムスティックをくるくる回す。 五人の目的はただ歌や演奏を披露することではない。真の目的はパーティ参加者からの情報収集だ。アンダーソン一族が関係していることまでは既に把握している。ならば、パーティに行けば関係者からたどり着くだろう。 たまたま主催者のバート・アンダーソンの婚約者はマルチナの同級生で、何も知らずに松花江に出演依頼をしてきた。華やかな物を好む彼女があえて松花江を選んだのはなぜかはともかく、松花江の五人には良い機会だった。
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