溢れる

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溢れる

穏やかな日々だった。 家事も。山の散策も。畑仕事も。生活していくということは喜びに溢れているのだと知る。 最初は戸惑った村人達の優しさも、素直に受け止められるようになった。 ただ時々、迫る死に心が囚われることがあった。悲しみでも苦しみでもなく、諦めと少しの寂しさ。姉もこんな気持ちだったのだろうか。もっと話をしたかったと、今になって思う。 「いよいよ明日か。寂しくなるな」 「泣いた時にそばにいてくれる人間がいなくなるからな」 サカドは弟を思い出しては時々泣いていた。そういう時は静かに隣にいた。 これ以上苦しませてはいけない。 その涙を俺のためにも流してほしい。 相反する想いは渦のように体を巡って止まらない。 「うわ!地震か!」 地面が揺れた。すぐにおさまったが、サカドは不安そうな顔をしている。 ああ、死の気配がすぐそこまで来ている。 「明日で全てなくなる」 待て。何を言う気だ。 「明日で天災は起きなくなる」 やめろ。それ以上は言ってはダメだ。 「……なんでそんなことがわかるんだよ」 「俺が明日死ぬからだ」
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