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本棚に追加01 始まりの夜
───「佐藤?何やってんの?」
聞き覚えのある声で目を覚ます。やべっ、俺 いつの間にか寝ちゃってた。
「紘人って結局男が良いんでしょ。」
バイであることを知られてしまった彼女に屈辱的な言葉で振られて自暴自棄になった俺は、あぁ、そうだよ。男の方が好きだ。女は面倒臭い。そう開き直って、明日も休みであることを良いことに前から気になっていたゲイバーに足を運んだ。
良い出会いがあれば久しぶりに男と出来るかもしれないなんて淡い期待を抱いていた。でも、声を掛けて来るのは全然好みじゃ無い人ばかりで、結局ヤケ酒を飲むみたいになってしまったんだ。
───今の声、もしかして結城さんの声?恐ろしく良い声をしているからこんな状態でも分かる。いや、でもこんな所にいるわけないよな……と思いながらカウンターに伏せていた顔を上げると、
「マジで佐藤かよ。」
こちらを覗き込んでいる結城さんと目が合った。そんなに驚くかって位、目を丸くしている。
───結城 涼。
同じ会社で同じ課の人。役職は主任で一緒だけど三年も上の先輩。めちゃくちゃイケメンで仕事も出来る完璧な人で、上司部下、男女問わず人気者だ。
でも、俺は結城さんが苦手だ。
なぜなら、俺に対して凄く冷たいから。明らかに他の後輩とは態度が違う。何かしてしまったのかと考える程だけど、心当たりはない。
そもそもニコニコ愛想を振り撒くタイプでは無くてクールな感じだけど、他の後輩とは気さくに話すし、笑顔を見せていることもある。
今年初めて同じ課になったとはいえ、もう6月だし、いつも塩対応を浴びている俺は、この人絶対性格悪いだろ、何だか胡散臭いなあと思っていた。
えーっと……ここ、ゲイバーだよな。会社からも結構離れた場所にある。何でこんな所に結城さんがいるんだろう。まさか、結城さんもゲイとか?……いや、ないよな。抱いた女は数え切れないとか噂されてる人だぞ?
ボーっとした頭で考えを巡らせていると、
「涼、その子知ってるのか?」
肩幅が広く筋肉質で男らしいマスターが、いつの間にか俺の隣の席に腰掛けている結城さんに声を掛けた。
「会社の後輩です。」
「マジか、なら良かった。初見のお客さんだからどうしようかと思ってたんだよ。」
結城さんとマスターが親密そうに会話を続けているけど全然頭に入ってこない。
まったく整った顔してんなあ……襲ってくる睡魔に耐えられず、ウトウトしながら結城さんの顔を眺めていると、
「帰るぞ。」
そう言われて腕を抱えられる。
……は?帰る?どこに?
「一人で大丈夫です。」
結城さんのお世話になる訳にはいかない。これ以上嫌われたらどうすんだ。
危機感を感じて自力で立とうとするけど、身体が言うことを聞かない。
……ガシャン
何とか立ち上がってもフラついて椅子を倒してしまう。
「おい、無理すんな。」
「……すみません。」
結局、結城さんに介抱されながら店を出た。

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