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「茉莉花」
『はい』
「今日店休みよね。ちょっと付き合いなさいよ。ほら、さっさと歩く」
彼女の荷物を強引にひったくって歩き出す。何も聞かないでついてくるあたり、気づいてるのね。全く、お察しのいいこと。
「ほら、好きなもの頼みなさい」
困ったわね。鮮明に思い出される記憶にアタシ、動揺してるのかしら。
『ヒデちゃん、そんなにハイペースで大丈夫…』
「舐めんじゃないわよ小娘。飲みたい夜っていうのがあって…」
『はい!付き合います』
お互いアルコールが回り始めた時に彼女のスマホに着信。相手は隆二ね。電話を変わり、酔わせすぎないようにしっかりと釘を刺され、その声にアタシの酔いは加速気味。
「ほんっと羨ましい。あんないい男の家に暮らしちゃって、しかも可愛がられちゃって、人生不公平だわっ」
『ヒデちゃん幸せじゃないの?』
「幸せに決まってるじゃないの!アタシの人生に悔いはないの。好きな様に生きて、職もある。いい男たちに囲まれて、アタシの事を愛してくれる彼もいる。…でもね…」
隣を見ると、なんの好奇心もなく当たり前のようにアタシの話に耳を傾ける彼女の姿。その顔を見て、少しだけ話したくなったの。ほんの少しだけ、アタシの過去を。
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