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やぁねぇ。野蛮なことはしないわよ。アタシの中から抹殺したってこと。
アタシのこと気にする素振りを見せてきたけど、後の祭りよね。アタシ、切り替え早いのよ。もう過去は振り返らず、前へ前へ。なんならクラス全員にカミングアウトしてやったわよ。それで気持ち悪がる人もいるし、何も変わらない人もいるし、それは個々の自由だもの。全員に受け入れてほしいなんて、思ってないから。
それからアタシ、ヘアメイクの勉強するために高校卒業したら留学したの。最初はロンドン、次はニューヨーク。学校を卒業する前から作品を持って片っ端から撮影スタジオとかカメラマンとか雑誌社を回って仕事をもらい始めたの。
数年後、日本に戻って仕事して、そこそこ売れっ子だったのよ?
『隆二さんとはいつ?』
アタシが日本に戻ってから少しして、物凄い色男が専属のヘアメイクを探してるって2丁目界隈で噂が広まったのよ。どこのモデルかしら?どこのアーティストかしら?ってとにかくその話題で持ちきりよ。
そしたらTHE CLUBの隆二だって言うじゃない。名前も知ってたし、もちろん顔だって写真で見たことあった。でも実物には会ったことなかったのよ。
どうにか接点をもちたいって考えていた時、面接が開かれてね。
『私の時みたいに?』
「そうそう。あの妖しげな建物の一室で夜な夜な開かれたの」
色んな人間が来ていた。ほとんどが色ボケした女たちだったけどね。その様子を見ていてアタシ許せなかった。
だって、順番を待ってる間の会話が、どうやって隆二や久砂、宗正をモノにするかって話題ばっかりだったから。
アタシはプロとして勝負かけにきてるのよ。そんな女たちは蹴散らしてやるって、冷めた目で見てたの。
それでね、アタシの番になったから、部屋の中にいた宗正をとっ捕まえてその場でメイクをしてやったのよ。
『隆二さんや久砂さんをとっ捕まえなかったんだ』
「やあね。ビビって近づけなかったわよ〜。今なら突進して脱がしてやるところだけど、あの頃のアタシはシャイだったの」
手応えを感じたわ。
アタシの持てるスキルを全て披露したんだもの。それで、隆二をじっと見つめたら、なんだか懐かしい気持ちになった。
「隆二さんだって気が付かなかった?」
『全く。だって高校生の頃の記憶で止まってるのよ。当時とは比べ物にならないほど美しさに磨きがかかってたし、気怠い色っぽさが増してたから』
でもね、アタシその場で宣言したの。
“アタシなら、ここの男たちを突き抜けた一流に仕立てることができる”って。
隆二、笑ってた。もうこれは運命なのよ。
アタシたちは出会うべくして出会ったの。
その日のうちに結果が出るっていうから、アタシそのまま待ったのよ。連絡は電話って言ってたけど、直接聞きたいじゃない。だから店の外でずっと待ったの。
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