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「いくら警備が厳重な王宮とはいえ、私にかかればチョロいものね」
いかにも魔導士といった感じのローブを着て、魔力を高めるための杖を手にした警備員が、王宮の敷地内にはウロウロしていた。
しかし、しょせん彼らも人間だ。歩く時でも立ち止まっている時でも、手足の動きや微妙な仕草、視線の移動などをよく観察すれば、必ずどこかに隙があった。
一般的に庶民は魔力が低いと言われているが、実はシンディには、いくつかの魔法が発動できるほど、十分な魔力が備わっている。いざとなれば魔導士相手でも戦える自信があるくらいだが、一度も魔法に頼ることなく、こうして目的の部屋まで辿り着いていた。
「だけど……。さすがに、これは魔法が必要かしら?」
庶民のベッドルーム程度の広さで、窓ひとつない殺風景な部屋。中央には大理石の台座が用意され、その上に金属製の宝箱が鎮座している。
それらしき鍵穴がないどころか、蓋を開閉するための留め金や蝶番すらも見当たらなかった。
「きっと『解錠』の魔法で開けるタイプよね。でも私、さすがにそんな高等魔法は使えないし……」
ならば箱ごと盗んで行き、後で裏の世界の魔導士に依頼するのが最善策。そう考えて宝箱に手を伸ばしたところ……。
「えっ!?」
驚いて叫んでしまったのも無理はない。
シンディの手が触れた途端、パチンという音と共に、蓋が勝手に開いたのだ!
「どういうこと? なんだか『私の魔力に反応しました』って感じだけど、でも……」
瞬時に一つの可能性に思い至ったのだから、驚いてはいても冷静さは失っていなかったのだろう。
しかし彼女にわかるのは、そこまでだった。
「……なんで私の魔力波長が、王族の宝箱に登録されてるわけ?」
戸惑いながらも、箱の中を覗き込む。
とりあえず中身をゲットして、急いで逃げ出そうと思ったのだが……。
「えっ、どういうこと?」
再び困惑の声を上げるシンディ。
箱の中身は空っぽ。中には何も入っていなかったのだ。
「冗談じゃないわ! ふざけてるの? こんな……!」
怒りさえも覚えて、実際それを口にも出したが、彼女は途中で言葉を飲み込んでいた。
ちょっとした誤解に気づいたからだ。
一瞬「何も入っていない」と思ってしまったけれど、よく見れば透明な物体が入っていた。
硬質な光を反射しているので、おそらくガラス製品だろう。どうやら「王族が代々守ってきた貴重な装飾品」の正体は……。
「これって……。ガラスの靴かしら?」
いつもの癖で独り言を口にしたつもりだったが、意外にも答えが返ってくる。
「その通り、ガラスの靴だ。『シルヴェーヌとガラスの靴』の話くらい、君も知っているだろう?」
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