3人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
シンディが盗み出そうとしていた宝箱を、チャールズ王子は力強く指差していた。
釣られるようにして、改めてシンディは箱の中身を覗き込む。
先ほど「ガラスの靴かしら?」と口にした時は意識していなかったけれど、そこに入っている透明な靴は、左右ペアではなく片方だけ。まさに『シルヴェーヌとガラスの靴』の話に合致していた。
「だけど……」
それでも半信半疑なシンディに対して、小さな苦笑いを浮かべながら、チャールズ王子が告げる。
「『実際にあった出来事を元にした昔話』ではあるけれど、もちろん事実と違う部分もあってね。例えば、城の王子とシルヴェーヌが楽しく踊り続けた……という件だ。あの部分は、それこそ子供向けに、かなりマイルドに脚色されているんだよ。先祖代々の言い伝えによれば、実際は……」
二人は舞踏会の会場をそっと抜け出して、王子の寝室へ。そこで結ばれたのだという。
真夜中を示す鐘が鳴り始めた時もまだベッドの中であり、慌てて帰るシルヴェーヌには、きちんと身支度する暇がなかった。だからガラスの靴も片方だけ脱げてしまったのではなく、最初から片方しか履く時間がなかったのだ。
「何それ……」
子供の頃に楽しんだおとぎ話が、なんだか汚された気分だ。
シンディは少し顔をしかめるが、チャールズ王子の衝撃的な話には、まだ続きがあった。
「言い伝えによれば、件の王子は『その一夜でシルヴェーヌが身籠ったのではないか』と考えたらしくてね。シルヴェーヌ本人は無理でも、いつか彼女の子孫がガラスの靴を取りに来るかもしれないと思って……」
シンディを見ながら、チャールズ王子はニヤリと笑う。
「……王家の血を引く人間だけが開けられるよう、個人の魔法の波長を利用した仕掛けが、その箱には施されていたのさ」
最初のコメントを投稿しよう!