宝物は透明な靴

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    「ちょっと待って! それじゃ……」  シンディは本来、頭の回転の速い女性だ。チャールズ王子の発言が意味するところを、正しく理解していた。 「……私にも王族の血が流れてる、ってこと?」 「うむ。だが、それだけではまだシルヴェーヌの子孫とは限らない。うちの先祖の中には、品行方正とは言えない連中も多かったからね。女遊びの末に生まれた、いわゆる御落胤みたいな子供たちも、王都にはたくさん存在するだろう。そちらの血筋由来の子孫かもしれないから……」  チャールズ王子は、改めて宝箱を指し示していた。 「……そこに入っているガラスの靴。試しに履いてみてくれないか?」 「どういうこと? たとえシルヴェーヌの子孫でも、ぴったり足のサイズまで同じになるはずないでしょう?」 「ああ、大丈夫。そんな杜撰なチェック方法ではないから。まあ騙されたと思って、とりあえず履いてみてくれ」 「そこまで言うのなら……」  口では渋々といった様子を示すものの、内心では何だかワクワクしながら、シンディはガラスの靴を取り出して、足に合わせてみる。  少しきついけれど、一応は履くことが出来た。 「どうかしら? 似合う?」 「うん、似合うよ。それよりも……」  わざとらしくポーズを取るシンディに対して、チャールズ王子はおざなりに相槌を打つ。 「……ちょっと心の中で念じてみてごらん。その靴みたいに透明になりたい、って」 「透明化? もしかして、この靴、そういう魔法が付与されてるの?」 「そう。魔力を持たぬシルヴェーヌでも使えるような、特別な魔法器具(マジック・アイテム)で……」  そもそも『シルヴェーヌとガラスの靴』のおとぎ話でも、シルヴェーヌは舞踏会の夜、最初は家で泣いていたことになっている。ならば魔導士に助けられて急いでお城まで駆けつけても、既に舞踏会は始まっており、その扉も閉ざされていたはずだ。  そこに密かに忍び込むことが出来たのも、ガラスの靴という魔法器具(マジック・アイテム)で、(おのれ)の体を透明にしたからこそ。  また帰りは帰りで、王子様が追いかけてくるのを楽々振り切れたのも、透明化アイテムのおかげ……。  その辺りの事情を、チャールズ王子はシンディに説明してみせた。 「……シルヴェーヌ個人の特性に合わせてあるけど、そういうのは遺伝するからね。シルヴェーヌの子孫でも使えるはずだよ」    
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