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思わぬ申し出
高三の十二月の半ば母が亡くなった。
病気だった。分かった時は手の施しようがない状態だった。
終末医療で母は眠るように亡くなった。苦しまなかったのがまだ不幸中の幸いだった。
私は母と二人暮らしだった。父の顔は見たことがない。物心ついた頃から母しかいなかった。
幼い頃、父のことを聞いても母は困った顔をするので、それ以後は聞けなかった。
母は介護施設で働いていた。そこの所長さんは私たち親子にとてもよくしてくれた。母が亡くなった時も手続きを一手に引き受けてくれた。
私には母以外に身寄りがなかった。所長さんが側にいてくれたのは心強かった。
母が亡くなったのは辛かったが、ずっと泣いている余裕はなかった。
全ての手続きが終わり、所長さんと一緒に母の骨壺を持ってアパートに戻って来た。
ダイニングテーブルに二人で座ると所長さんに話し掛けられた。
「友杏ちゃん、これからどうするの?」
「高校は後三ヶ月ですから何とか卒業して、それから就職します」
「でも、指定校推薦で大学は決まってなかった?」
「はい、でもとても通うことは…」
「奨学金と遺族年金とか、保険金で何とかならないかしら」
「いえ、それはさすがに無理ですよ」
「そうかしら…」
所長さんは残念そうに呟いた。
私は高校は私学の女子校の特進コースに通っていた。その学校は特進コースの中でも成績が優秀な生徒にはかなりの学費が補助される。母が昔通っていた高校の系列高校だったらしい。母の助言でそこに進学した。私は中学で成績が上位だったので、高校受験も推薦で入り、尚且つクラスでもトップクラスの成績でいた。
何となくだが、母は昔、お嬢様だった気がしていた。品があって綺麗だった。
所長さんも昔冗談で息子さんの見合いを母に勧めたと言っていた。母は勿論断ったらしいが。
「私が保証人になるからそれでもダメかしら」
「いえ、所長さんにはよくしてもらったので、もう十分です」
「でも…」
その時アパートのインターホンが鳴った。
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