恩人の息子

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「あなたのお父さんのことなんだけど…」 「お父さん…」 「沢渡さんはあなたのお父さんのことは関わるなって言ってたけど、私は気になってね。実は前にせめて名前だけでも、教えてほしいと言ったのよ」 「教えてもらえたのですか?」 「ええ。でも、もし私がその父親に尋ねでもしたら、友杏ちゃんを引き取る話も無しにするとそこは強い口調でおっしゃって…」 「そうなんですか…」 「名前、知りたい?」 「一応…」 「葛城 劉(かつらぎ りゅう)という方よ。真宮という姓はやはりお母さんの旧姓のようね。お母さんにはご兄弟もいなかったみたい」 「そうですか」  葛城 劉…名前からして厳つい印象があった。 「あなたの実のお父さんだものね。知っておいたほうがいいと思って。でも、お母さんも最後までその人には連絡は取らなかったのだから、確かに関わらない方がいいのかもね」 「そうですよね…」 「こんな立派なお家に身を寄せることができたもの。これからの生活を考えた方がいいわ。沢渡さんも、息子さんも良い方そうだし」 「はい、わかりました」 「じゃあ、友杏ちゃん元気でね。また、生活が落ち着いたら連絡くださいな」 「所長さん、ありがとうございました」  私は深々と頭を下げた。  所長さんは笑顔で手を振って去って行った。  私は家の中に入り、自室に戻った。  ベッドに寝転び、今日様々あったことへの物思いにふけていた。  暫く経つとノックの音がした。 「はい」 「俺」  純くんの声だった。  ドアを開けるとお風呂上がりなのか少し髪が濡れた純くんがTシャツ短パン姿で立っていた。  私はそんな男の子の姿に免疫がないのでまたドキッとしてしまった。
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