恩人の息子

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「友杏ちゃん、お風呂入る?俺も父さんも入ったから」 「う、うん」 「とはいっても俺たちはいつもシャワーなんだ。だから良かったら風呂沸かそっか?」 「だ、大丈夫。シャワーでいいよ」 「浴室の場所、わかんねえだろ?ドアの外で待ってるから用意を持って出てきて」 「あ、ありがとう」    私は慌てて用意をクローゼットから取り出した。  ドアを開けると純くんは待っててくれた。 「お待たせしました」 「行こうか。ついでに他の部屋も案内するよ」 「わ、わかった」  純くんと連れ立って二階から歩くことになった。 「友杏ちゃんの部屋の前が俺の部屋。だからこれからも、わかんないことがあったらノックして聞いて」  「ありがとう」  二階の長い廊下を二人で歩いた。 「この一番奥の部屋が父さんの寝室。この隣が書斎かな」 「もう沢渡さんは休まれてるかな?」 「多分まだ書斎にいると思う。挨拶する?」 「うん」  書斎のドアをノックをすると「はい」と返事があった。 「友杏です」  ドアが開き、沢渡さんが出てきた。 「どうかしたか?」沢渡さんは純くんがいることにも気が付いた。 「お前もどうした?」 「友杏ちゃんに風呂の場所教えてやろうと思って」 「そうか」 「沢渡さん、色々ありがとうございました。今からお風呂をいただいて、今夜は休みます」 「わかった。でも友杏さん、僕は帰りも遅いことが多いからこれからは気にしなくて先に寝てくれていいからね。後…」  沢渡さんはじっと私の顔を見た。 「名字で呼ばれるのもよそよそしいから、これからはおじさんって呼んでくれないか」 「え、で、でも…それは…」  何となく沢渡さんの顔が寂しそうに見えた。 「わかりました。おじさん、お休みなさい」 「お休み、純も」  おじさんは少し微笑んだ。 「ああ、お休み」  ドアが閉まった。 「そういえば友杏ちゃんは俺のこと何て呼ぶの?」 「純くん…じゃ、ダメかな?」 「純くんか…とんと呼ばれたことねえな。みんな俺のことは呼び捨てするから」 「や、やめた方がいい?」 「ううん、それでいい」  何故か純くんも少し微笑んだのだった。  
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