思わぬ申し出

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「はい」  インターホンの画面には中年らしき男性が立っていた。 「沢渡(さわたり)と言います。…お母さんの友人です」  お母さんの?  私は戸惑って所長さんを見た。所長さんも困惑した顔をしたが「私もいるから、出てみたら?」と囁いた。  私は玄関のドアを開けた。  すると、母と年齢はそう変わらなさそうなスーツを着た男性が立っていた。  沢渡と名乗った男性は私の顔を見てハッとなり「絵理子…」と呟いた。  「絵理子」はお母さんの名前だった。 「あの」 「お母さんはみえるかな?」 「いえ…母は一昨日亡くなりました」 「えっ」  沢渡さんは私の言葉を聞くと絶句した。 「そんな…」 「もし、良かったら遺影に手を合わせますか?」 「あ、ああ…」  沢渡さんはヨロヨロと部屋の中に入った。そして私に案内された部屋で、母の遺影と骨壺を見ると固まった。 「絵理子…どうして…」  沢渡さんは顔を覆ったまま呟き、泣き崩れてしまった。  私と所長さんは茫然とその様を眺めるしかなかった。  沢渡さんはむせび泣いていたが、暫くしてから顔を上げた。 「…申し訳ない。みっともないところを見せてしまった」 「いえ、母の為にこんなに悲しんでくださってありがたいです。あの…母とはどこで…」 「友杏ちゃん、座っていただいたら?」  所長さんが口を挟んだ。   「す、すみません、気が付かなくて」 「いや、とんでもないよ。君はお母さんを亡くしたのに気丈だな」 「母は不治の病で、覚悟はしていたので…」 「そうだったのか…」  沢渡さんにダイニングで座ってもらい話を聞くことにした。  
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