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沢渡さんは名刺を前に座っている私と所長さんに渡した。
そこには「学校法人聖歌学園 副理事長 沢渡 慶春」と書いてあった。
「副理事長さん…」
私も所長さんも驚いて沢渡さんを見た。
沢渡さんはよく見ると着ているスーツも高級そうでロマンスグレーという言葉がピッタリな感じだった。確かに地位が高そうな方に思えた。
私と所長さんも、それぞれ簡単に自己紹介をした。
「聖歌学園はお母さんの母校だよ」
「そうなんですか?沢渡さんは母の友人と聞きましたが…」
「ああ、僕とお母さんは…遠い親戚で昔から知ってるんだ」
「幼馴染みみたいなものですか?」
「…そうだね」
「沢渡さんはどうしてここに?」
「お母さんから手紙を貰ったんだ」
「母から?」
「ああ、一度会いたいって書いてあった。だから取るものとりあえず駆け付けたけど、まさか、不治の病に侵されていたなんて…」
「でも、どうして沢渡さんに、あの…私の父親は」
「昔、お母さんは君のお父さんの元から失踪したんだ」
!
「そ、そうなんですか?」
「私も初耳よ。絵理子さんは聞いても教えてくれなかったから…」
所長さんも驚いていた。
「あの、父は生きているのですか?」
「君はお母さんから何も聞いてないのか?」
「はい」
「…そうか。無理もないか」
沢渡さんは苦しそうな顔をした。
「君のお父さんはいるよ。でもお母さんとはとうの昔に離婚している。警察から生存不明の通知が来てから直ぐに」
「母はどうして父から去ったのですか?」
「お母さんはお父さんと政略結婚の様なもので…飾りの妻だったんだ。お父さんは他にも愛人がいた。それがわかりお母さんは離婚を申し出ても受け入れてもらえなかった。でも君を妊娠して…君を家の人に奪われるのが嫌だったのだろう」
「家の人って…」
「お父さんの両親だよ。お母さんは出産したら君を取り上げられそうになりそうになったから逃げたんだ。あの家は跡継ぎだけが欲しかったからな」
お母さんにそんな事情があったなんて…
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