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「沢渡さんはどうして母のことをそこまでご存知なんですか?」
「絵理子は僕にとって姉のような人だったんだ。彼女も僕以外に故郷に連絡を取れる人はいなかっただろうし」
「あ、あの、母の両親は…」
「もう二人とも他界してる」
「そうなんですか。なら、父は今は…」
「再婚して別の家庭を築いているよ。子どももいる。その子が跡継ぎだ。君のことはいないものだとしてるだろう」
「何ですか、それ。血を分けた娘でしょう?」
所長さんが憤慨したように言った。
「あの一族はそういう人たちなんだ。友杏さんだったか。関わらない方がいい」
「そうですか…」
母が私を連れて行方をくらましたぐらいだ。この人の言う通り父親は冷酷な人なのかもしれない。
私は母の事情を知って、暗い気持ちになった。
これで私は本当に天涯孤独になったんだ…
「友杏さんは今、高校三年生だとさっき言っていたが」
「そうです」
「これからの生活はどうするのか?」
「何とか高校は卒業して、その後就職します」
「そうか…」
沢渡さんは、両肘をついて額に両手をあてた。何か思案しているようだった。
「どうかしました?」
私は声を掛けた。
「友杏さんは進学はしないのか?」
沢渡さんは顔を上げた。
「実は、この子指定校推薦で大学が決まってるんですよ。でもそれを辞退するって言っていて…」
所長さんが代わりに答えた。
「優秀なんだな」
沢渡さんは微笑んだ。そしてその後に予想外の言葉を提案した。
「もし良かったら、私の家に来ないか?」
え?
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