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「はい、大丈夫です」
所長さんが今はいてくれているとはいえ、今後は自分一人で生きていかないといけないのだ。大学に行かせてくれるという話だし、誰かと一緒に暮らす方が寧ろ心強かった。
「そうよね、友杏ちゃんが大学に合格したってお母さんも喜んでいたしね。大学で勉強したいわよね」
「そうですね。行けるものなら行きたいです」
「わかったわ。友杏ちゃんの生活が落ち着くまで私が側にいるからね」
「所長さん、何から何までありがとうございます」
「この仕事も助け合いだからね。あなたのお母さんは病気で倒れるまで本当によく働いてくれたから」
私は所長さんの優しい言葉に、涙が溢れた。
「友杏ちゃん…そうよね、我慢していたのよね。いいのよ、ここでは泣くだけ泣きなさい」
所長さんは、私をそっと抱きしめた。
所長さんの胸で私はせきを切ったように泣いたのだった。
ニ、三日経って沢渡さんから所長さんに電話があった。二月の上旬にAO入試があるのでそれに向けて小論文の対策はして欲しいことと、あちらの家には高校を卒業して春休みの間に来て欲しいという話だった。
沢渡さんの息子さんも私が住むことに特に反対しなかったらしい。
また、入試は首都で行うが、ホテル代も交通費も全て沢渡さんが全額出すとの話だった。
所長さんはその話から、すっかり沢渡さんのことを信用して私の連絡先を教えていいか聞かれた。
私は勿論了承した。沢渡さんの話から裏があるようには思えなかったからだった。
所長さんの手助けがあって母のことも落ち着き、アパートで一人暮らしが始まった。
所長さんが時々LINEのメッセージを送ってくれた。
元々母の帰りも遅かったので、一人暮らしも割と大丈夫だった。
学校は特進コースにいたため、小論文の対策もしてもらえた。
そして、いよいよ入試の日になった。
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