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メール
藤田が心配してくれているし、これ以上仕事でミスをするわけにはいかない。その日の夜は早目にベッドに入り、照明を消した。だけどやはり眠れない。何度も体の位置を変えながらゴロゴロしているとスマホが突然光った。
ぼんやりと表示を見ると、なんと高西先生からのメール!
僕は思わず体を起こしてメールを開いた。
そこに書いてあったのは、地方での同人誌即売会にサークル参加する予定(高西先生はあまり地方の即売会は参加しないのでレアだ)だけど、売り子の人数が足らないから手伝ってもらえないかというものだった。その即売会に参加するなんて、知らなかった。
『参加表明されてましたっけ?』と僕が返信すると昨日までめっちゃ修羅場でSNSをあげるひまがなかった、と返ってきた。僕はそれを見て、高西先生からの連絡が止まったのは自分の発言ではなかったことに心から安堵した。というか本当に泣きそうになるくらい、ホッとしたんだ。
『難しいかなあ』
高西先生のお願いに返信していなかったことに気づき、僕は慌てて、返事をする。この即売会の会場は僕の住む地方都市に近いのだ。それに、高西先生のお願いであれば受けないわけがない!
『ぜひ、手伝わせてください!』
『助かるー!じゃあ詳細を送るね』
あれだけ沈んでいた気持ちが嘘のように晴れて、僕は自分自身のチョロさに苦笑いしてしまう。
実るはずのない恋心を知られなくてよかった、と思いながらもどこかでまた振り出しに戻ってしまったという虚脱感もある。結局のところ僕はどうしたいんだろうか。
先生を失うと思うとこの気持ちは伝えたくない。でも先生がいるならこの気持ちを知って欲しい。ああこれってよく幼馴染ものや、学生ものに出てくるシチュエーションだ。ハッピーエンドが分かっているなら僕だって先生に告白するのに。現実になるとこうも怖いなんて。なんだか混乱してきたから、今日は寝よう。とりあえず明日からはもうクマは出来ないから、藤田は安心するだろう。
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