ファンタジーじゃない

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ファンタジーじゃない

数時間してようやく列が解消し、お客さんが少なくなってきた。ホッとしていると柴崎さんがそっとバームクーヘンをくれた。 「そろそろ休んでくださいね、この人数なら大丈夫ですから」 僕はその言葉に甘えて少し奥に置いてあるパイプ椅子に座る。ずっと立ちっぱなしだったから足がぱんぱん。ふくらはぎを揉みながら、バームクーヘンを食べると甘さが染みて疲れが癒される!  しばらくするとお客さんがちょうどいなくなって柴崎さんもバームクーヘンを立ち食いしている。どうやら高西先生が休むように言ってくれたみたい。 「いつも大変なんですね。僕びっくりしました」 「あはは。でも楽しいから、やめられないんですよね」 柴崎さんは売り子の裏側の話や高西先生の話を色々してくれた。どうやらかなり長い仲らしい。そして僕を見ながらこう言った。 「そう言えばそのネックレス。先生からのプレゼントですよね? よく似合ってますよ」 柴崎さんの言葉に驚きながらふと思い出した。以前、このネックレスをもらった日に先生のスペースにいた売り子さん。あの人は柴崎さんだったんだ。 「ここだけの話、先生は陸さんがスペースに来られるの毎回楽しみにしてらしたんですよ。三回目くらいの時から今日も彼、来てくれるかなあ、なんて。めちゃめちゃ可愛いですよね」 柴崎さんの話を聞いて僕は驚いて声も出なかった。僕に声をかけてくれる前から高西先生がそんなに気にしていてくれたなんて。僕は頬が赤くなっているのを感じた。 「昔はね同人誌を読みながらもどこか男同士の恋愛ってファンタジーだなって思ってたんですよね。紙の中だけの話って。だけど今はファンタジーなんかじゃない。現実にある恋愛なんだって思ってるんです」 「……えっ」 柴崎さんはまた笑顔を見せると僕の背中をバンと叩いた。 「多分、脈はあると思います! 頑張ってくださいねっ」 腐女子の勘の鋭さに僕は思わず苦笑いする。 そうだ僕は今、恋をしているんだ。男同士の恋愛の話をこんなにたくさん読んでいるのに、僕自身が否定するなんて、おかしいよね。 首まで真っ赤になっているであろう僕と、笑っている柴崎さんに高西先生が呼びかけてくる。 「楽しそうなところ、ごめん。どちらか手伝ってくれる?」 「はい」 柴崎さんを椅子に座らせて僕は高西先生の隣に向かった。
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