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その前に
もうお店に入って二時間近い。そろそろお開きにしないと新幹線の時間もあるだろう。そう言えば先生は何時に出るんだろう。
「先生、あの……」
「そう言えばネックレスやっぱりよく似合ってるね」
声をかけようとしたら高西先生が僕の首元を見ながらそう言ってきた、そうだ、このネックレスのことも聞きたかったんだ。
「これ、半年前の限定品ですよね? わざわざあの日持って来ていただいたんですか?」
「うん。そうだよ。君ならよく似合うだろうなって思って。プレゼントしたいなって買ってたんだ」
ドキンと胸が高鳴る。どうしよう、今、言うべきなのか? いや言うべきだろ!
「……高西先生、僕、お話したいことがあるんです」
ギュッと拳を握り目の前の高西先生を見つめる。すると先生は突然こんなことを言ってきた。
「うん。その前にさ、明日祭日だよね? 陸くん仕事、休み?」
「は……ええ、休みですけど」
「じゃあその話、落ち着いたところで聞かせてもらおうかな」
「お二人様、ツインのお部屋ですね。十二階になります」
「ありがとう」
カードキーをフロントから受け取り、高西先生は行こうか、とこちらを振り向いた。明日が休みだと答えたあと僕らは店を出て移動し、今こうしてホテルにいる。
電車の中で『飲む時には泊まりたいねって言ったでしょ』と嬉々として話していた高西先生に僕は唖然とした。
確かに言っていたけれど! ホテルで告白なんて、ダメだったらどうしよう!
部屋に着き、荷物をどさっと置く。途中のコンビニで買った追加のビールで乾杯をする。小さな円形テーブルを挟んで椅子に座り対面する格好だ。
「これでゆっくり聞けるね。話したいことって?」
僕が何を話そうとしているか、分かっていない先生はワクワクしたような顔を向けた。ここに来てまた迷いが出そうになる。告白して撃沈したら……他のホテル、探そう。
心臓の鼓動がめちゃくちゃうるさい。手のひらの汗だって半端ない。だけど伝えなきゃ。
「僕、高西先生が好きです」
「うん」
高西先生は目の前でニコニコしたまま。なんで? もしかして作家として、だと思ってる?
「あの、作家の高西先生ももちろんなんですけど……高西先生個人が、好きなんです。はっきりいうと僕はあなたに恋愛感情を持ってるんです」
キッパリと言ってしまった。
「うん」
なのに高西先生の表情は変わらない。口元を緩めて僕を優しく見ている。
えっ、何? どういう意味の微笑みなの?
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