断捨離

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 家に帰ると、玄関ドアにもたれかかるようにして、人が座り込んでいた。ぐったりと頭を下げ、顔はよく見えないが、若い男のようだった。服装はどこにでもいそうな、ごく普通の姿。  最初は酔っ払った人が部屋を間違えたのかと思った。隣人の顔すら知らない生活をしていると、こういう時にとても困る。同じアパートの住人かすら、わからない状態なのだ。  しばらくわたしは立ち尽くしていたが、男は一向に動く気配がない。 「すみません」  ずっとここにいられても困る。怖かったが、わたしはそっと彼に声をかけた。返事がないので何度か呼びかけたが、ピクリとも動かない。肩を揺すると、ズルリと彼の体が横向きに倒れた。  さあっと血の気が引いていく。咄嗟に呼吸を確認するが、息をしていない。少し触れた頬は冷たく、生き物の肌の感触ではなかった。 「死んでる……」  わたしは心臓がどくんと打つ音を聞いた。どうしてわたしの部屋の前で、知らない人が死んでいるのか。考えたところで答えなんか出るわけもない。そこから先はパニックになって、どう行動したのかよく覚えていない。
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