六文銭に添えて

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町内会長さんが、何かの紙を棺の中に入れていた。 気になったので聞いてみた。 「何を入れたの?」 「あれはね、『六文銭』っていうんだ。亡くなった人が三途の川を渡るためのお金なんだよ。(もん)ってのは、昔のお金の単位だ。六文銭を本物のお金で用意するのは大変だから、印刷した紙を棺桶に入れるんだ」 「ふ~ん、死んでからもお金がかかるって、大変だね」 「まぁ、そうだな。お金がないと生きることも死ぬこともできないのかもな」 そのとき、ボクは思いついた。 「……このお金、棺桶に入れていいですか?」 そう言ってボクは、十円玉を四枚、差し出した。 「涼介は出さなくていいんだよ」 「いや、入れさせてください。この子が向こうの世界に行ったとき、お菓子が買えるように」 「……分かったよ。遺体は見ない方がいい。贈り物はここに入れなさい」 ボクは十円玉を四枚、棺の中に入れ、そして手を合わせた。 「涼介の思い、届くといいな」 「うん」 親子の棺は、火葬場の炉の中に入れられた。
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