六文銭に添えて

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お葬式が終わり、ボクたちは日常を取り戻した。 あれだけ騒いでいたテレビも、手のひらを返したかのようにこの町の事件のことを報道しなくなった。どこどこが悪いと批判ばかりしていたコメンテーターは、今は別の事件について目くじらを立てて、どこどこが悪い、誰々が悪いと言い続けている。 * * * 今日もボクは百円玉を財布に入れ、いつもの駄菓子屋を訪れた。 「おっちゃん、元気?」 「おうよ!」 「ところでさ、おっちゃん。夜は眠れるようになった?」 「あぁ、お葬式の後、やっぱりあの親子が夢に出てきたよ。でもな、今度は子供がお金を渡してきてな。夢の中だったけど、お菓子をあげることができたよ。あの親子、なんだか嬉しそうな顔をして、そして消えていったよ」 「……そっか、あの子、買えたんだ」 「それ以来、夢にあの親子が出てくることはなくなった」 「そうなんだ。それ聞いて安心したよ。じゃあさ、おっちゃん、これちょうだい!」 ボクは、お気に入りの四十円のお菓子を二つ選んで、百円玉を渡した。 「おっちゃん、あの子が買っていったお菓子って、これでしょ?」 「……涼介、なんでおっちゃんの夢の中まで分かるんだ?」 「ふふーん、ナイショ! ほら、百万円!」 「まいど! じゃあ、お釣り、二十万円!」 ボクはお菓子を二つ受け取って、いつもの公園に行った。 「祐希~お待たせ~」 ボクたちはベンチに座って、持ち寄ったお菓子を交換する。 ボクの四十円はあの子に届いた。 そんなことを思いながら、誰もいない砂場を眺めていた。 「涼介、どうした?」 「……いや、なんでもないよ」 ボクもいつかは誰かを助けることができる、そんな大人になりたい。 そんな決意を祐希に見られたような気がして、ちょっと恥ずかしくなった。 ボクはそれをごまかすようにこう言った。 「キャッチボールやろうぜ!」 「うん! やろう!」 空を見上げると高いところに雲が二つ浮かんでいた。 大きな雲が一つと、小さな雲が一つ。 ひょっとしたら、あの親子が空から見ているのかも知れない。 * * * 今日も祐希とたくさん遊んで、家に帰った。 「母さん、おなか空いた!」 < 了 >
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