3人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
9、魔王様と姫様の出会い
運命の番。
いづれ自分が出逢うであろう、魂の伴侶。
瞳が重なった瞬間に恋に落ち、自分では抑えきれない愛しさが溢れ止まらなくなる存在。
父から寝かし付けに聞かされた話に、幼きヒカルは、くだらないな、と鼻で笑う。
そして父に向かい、小馬鹿にした様に自信満々に言う。
「そんな運命、もし出会ったとしても知らんフリで無視してやるさ。そもそも、俺が誰かに夢中になるなんて、まずあり得ないね」
魔王の息子として、周りから可愛がられ慕われ警護され、常に誰かと一緒に行動しなくてはいけないヒカルにとって、これ以上の縛りは、本当に勘弁して貰いたい事だった。
伴侶を迎えるとしても、それは自分で選り好みし、最適な相手を見つけるべきだと考えている。
「ヒー君よ」
「その呼び方止めてくれ、父さん」
「ふっ、諦めるのだ息子よ。魔王の血統を継いでしまったお前に、それを回避する術はないのだよ。愛着、執着、女々しさ、理性は制御不能になり、よく分からん幸福感情に悶える日が、お前にもいづれ訪れるのさ」
「止めろー!!変な情報を息子に植えつけんな!!」
*****
父は大袈裟にわざと言って、自身で遊んでいただけだと思っていた。
なのに、瞳が重なった瞬間に「こいつは俺のだ」と歪な感情に支配された。
とろとろに理性が溶かされ、心が幸せで満たされていく。
可愛くて、愛しくて、恋しくて、本当に、よく分からん幸福感情に悶えた。
すぐさま悟る、あぁこんな分厚い馬鹿でか感情からは、絶対に逃れられないなと。
業務を少し休憩がてら魔王城を抜け出し、ラビア国を適当に散歩している最中、立ち寄ったうどん屋で麺を啜る少女に、ヒカルは一瞬で恋に落ちていた。
サクラコもサクラコで、突然の美男子から注がれる凝視に、中々次の一口を啜れないでいた。
「あの、何か?」
「だぁ、もぉ!!無視なんか出来る訳ねぇじゃん!!!娘さん、名は!?」
「え、あ、サクラコです」
「サクラコ、頼む、俺を拒絶して欲しい。俺じゃ制御が効かない」
「えっと、とりあえず、うどん屋さんじゃ迷惑だから、外で話さない?」
勘定を済ませうどん屋を出る。
目的地はないが、適当に歩を進めながらヒカルはざっくりとサクラコに、今、自分の身に起こっている事を説明する。
「なるほど、私がヒカル君の運命の番だと」
「・・・」
「ヒカル君、確かに格好いいけど、私の方はそこまで煩い感情をヒカル君に向けてはないのよね」
「・・・」
「ヒカル君?聞いてる?」
「サクラコ、可愛いな、好き」
誰が通るか分からない道端で、ヒカルはサクラコを抱擁し口付ける。
ゴン!!っとサクラコは、頭突きをヒカルにかます。
「・・・申し訳ない、助かった。危うく道端でサクラコと襲ってしまいそうなった」
「本当に自分を見失う様ですね、よく分かりました。なら、私と金輪際関わらなければ問題解決なのでは?ご自分で伴侶を決められたいのでしょ?私はこのまま先に進みますので、ヒカル君はうどん屋に引き返し、お腹を満たして来て下さい、それでバイバイです」
「多分、それは出来ない」
「なぜ?」
「今の俺、サクラコと離れたら恋しすぎて泣くと思う」
「子供ですか」
「はぁ、サクラコがうどん屋なんかに居るから・・・」
「先に居たの私で、後から来たのがヒカル君です。ヒカル君の運命に巻き込まれたのは私の方だと思います」
「うん、だな、わりぃ。サクラコが決めて、俺と共に居るか、俺を・・・捨てるか。やべ、泣きそ」
「もぉ、良心に刺さる言い方しないで。いいですよ、ヒカル君と居ます」
「随分、あっさりしてるな、いいのか?」
「ちょうど行く宛が無くて、これからどうしようかって悩んでいた所でしたし、ある意味、私も切羽詰まっているもので。貴方と一緒に居させて下さい、ヒカル君」
ちゅっと、サクラコの方から、ヒカルの頬へ口付けが贈られる。
喜びが高揚し、ヒカルの頭から角が飛び出る。
「ヒカル君って魔族だったんだ。角も格好いね」
「感情昂るから余り褒めるな、抑えるのが辛い。サクラコ、俺は出来る事なら、運命に理性を奪われる事なく、俺の意志として君を愛でたい。俺がだらしなくなったら、全力で止めてくれ」
「了解」
お互いの出自を知り、愕然とするのはもう少し会話を弾ませた後での事。
第九話「魔王様と姫様の出会い」終
最初のコメントを投稿しよう!