9、魔王様と姫様の出会い

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9、魔王様と姫様の出会い

運命の番。 いづれ自分が出逢うであろう、魂の伴侶。 瞳が重なった瞬間に恋に落ち、自分では抑えきれない愛しさが溢れ止まらなくなる存在。 父から寝かし付けに聞かされた話に、幼きヒカルは、くだらないな、と鼻で笑う。 そして父に向かい、小馬鹿にした様に自信満々に言う。 「そんな運命、もし出会ったとしても知らんフリで無視してやるさ。そもそも、俺が誰かに夢中になるなんて、まずあり得ないね」 魔王の息子として、周りから可愛がられ慕われ警護され、常に誰かと一緒に行動しなくてはいけないヒカルにとって、これ以上の縛りは、本当に勘弁して貰いたい事だった。 伴侶を迎えるとしても、それは自分で選り好みし、最適な相手を見つけるべきだと考えている。 「ヒー君よ」 「その呼び方止めてくれ、父さん」 「ふっ、諦めるのだ息子よ。魔王の血統を継いでしまったお前に、それを回避する術はないのだよ。愛着、執着、女々しさ、理性は制御不能になり、よく分からん幸福感情に悶える日が、お前にもいづれ訪れるのさ」 「止めろー!!変な情報を息子に植えつけんな!!」 ***** 父は大袈裟にわざと言って、自身で遊んでいただけだと思っていた。 なのに、瞳が重なった瞬間に「こいつは俺のだ」と歪な感情に支配された。 とろとろに理性が溶かされ、心が幸せで満たされていく。 可愛くて、愛しくて、恋しくて、本当に、よく分からん幸福感情に悶えた。 すぐさま悟る、あぁこんな分厚い馬鹿でか感情からは、絶対に逃れられないなと。 業務を少し休憩がてら魔王城を抜け出し、ラビア国を適当に散歩している最中、立ち寄ったうどん屋で麺を啜る少女に、ヒカルは一瞬で恋に落ちていた。 サクラコもサクラコで、突然の美男子から注がれる凝視に、中々次の一口を啜れないでいた。 「あの、何か?」 「だぁ、もぉ!!無視なんか出来る訳ねぇじゃん!!!娘さん、名は!?」 「え、あ、サクラコです」 「サクラコ、頼む、俺を拒絶して欲しい。俺じゃ制御が効かない」 「えっと、とりあえず、うどん屋さんじゃ迷惑だから、外で話さない?」 勘定を済ませうどん屋を出る。 目的地はないが、適当に歩を進めながらヒカルはざっくりとサクラコに、今、自分の身に起こっている事を説明する。 「なるほど、私がヒカル君の運命の番だと」 「・・・」 「ヒカル君、確かに格好いいけど、私の方はそこまで煩い感情をヒカル君に向けてはないのよね」 「・・・」 「ヒカル君?聞いてる?」 「サクラコ、可愛いな、好き」 誰が通るか分からない道端で、ヒカルはサクラコを抱擁し口付ける。 ゴン!!っとサクラコは、頭突きをヒカルにかます。 「・・・申し訳ない、助かった。危うく道端でサクラコと襲ってしまいそうなった」 「本当に自分を見失う様ですね、よく分かりました。なら、私と金輪際関わらなければ問題解決なのでは?ご自分で伴侶を決められたいのでしょ?私はこのまま先に進みますので、ヒカル君はうどん屋に引き返し、お腹を満たして来て下さい、それでバイバイです」 「多分、それは出来ない」 「なぜ?」 「今の俺、サクラコと離れたら恋しすぎて泣くと思う」 「子供ですか」 「はぁ、サクラコがうどん屋なんかに居るから・・・」 「先に居たの私で、後から来たのがヒカル君です。ヒカル君の運命に巻き込まれたのは私の方だと思います」 「うん、だな、わりぃ。サクラコが決めて、俺と共に居るか、俺を・・・捨てるか。やべ、泣きそ」 「もぉ、良心に刺さる言い方しないで。いいですよ、ヒカル君と居ます」 「随分、あっさりしてるな、いいのか?」 「ちょうど行く宛が無くて、これからどうしようかって悩んでいた所でしたし、ある意味、私も切羽詰まっているもので。貴方と一緒に居させて下さい、ヒカル君」 ちゅっと、サクラコの方から、ヒカルの頬へ口付けが贈られる。 喜びが高揚し、ヒカルの頭から角が飛び出る。 「ヒカル君って魔族だったんだ。角も格好いね」 「感情昂るから余り褒めるな、抑えるのが辛い。サクラコ、俺は出来る事なら、運命に理性を奪われる事なく、俺の意志として君を愛でたい。俺がだらしなくなったら、全力で止めてくれ」 「了解」 お互いの出自を知り、愕然とするのはもう少し会話を弾ませた後での事。 第九話「魔王様と姫様の出会い」終
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