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【シオン独白】
「・・・ウッソでしょ、道に迷った」
任務先に向かう為、近道しようと魔物が暮らすからと危険だと注意喚起されている森に入り込み、盛大に迷った。
さてどうするか、右も左も、前も後ろも木々ばかりの同景色。
敬愛する魔王様から頂いた今回の命は、王都に入り、人間達が魔族に対する好感度を調査すると言うもの。
昔程ではないが、今だ人間達は魔族を悪として捉える考えをする者が多い。勿論、魔族に友好な人間達も居る。
どの時代も、人間だろうが魔族だろうが、等しく身勝手な奴は一定数存在する。
人間と魔族の安定と平和を守る、それが私が務める魔王直下警備隊の役割。
そして、人間と魔族の違いは、魔力があるかないかと、角の有無ぐらいだ。
ちなみに角は簡単に引っ込められる。
見た目も寿命の長さも成長速度も、人間も魔族も変わりはない、その昔は一つの種族だったらしいし。
「今日はもう寝よ」
もう夜も遅い、この森からの脱出は明日考えよ。
寝袋に包まったら、相当疲れていたのかあっとう言う間に眠気に襲われ意識を手放した。
翌朝、押しつぶされそうな感覚で目が覚めた。
「んぁ?何?おも・・・・はい?」
なんだこの状況は?
同じ寝袋で、男に抱きつかれている。その男は気持ちよさそうに寝息など立てている。
抜け出そうと暴れたか、暴れれば暴れる程、何故か男の拘束が強くなる。
私、一応魔王直下警備隊ではそこそこ良いポジションを任される程、そこら辺の男に負けぬ実力の持ち主なのだぞ。
何者だ、この男、気配からして人間の様だが。
「久しぶりの女・・・柔らかっ」
男の手がいらぬ所に伸びようとしたので、自分も痛いが頭突きで叩き起こした。
男が拘束を緩ませた隙に、寝袋から飛び出した。
「イッテェ、何すんだよ」
「それは、こっちの台詞です!何してるんですか貴方は!?女性の寝袋に潜り込むなど、破廉恥にも程があります」
「夜、寒いし。ちょうどいい湯たんぽだなって」
「あれ、貴方は・・・」
なんと、その男の顔に、見覚えがあった。
一年更新される新装版の人間図鑑に新たに追加登録された男だ。
データによると確か、氷の名証を授かった5剣士の一人。実力は10段階の10。
正直、まずい相手に出くわしてしまった。
「俺の事知ってるんだ?」
「・・・氷剣士のライでしょ、貴方、有名人だもの。こんな所で何を?」
「魔王城に喧嘩売りに行く途中だったんだけどさ、道に迷ったというか、森に閉じ込められたというか。そっちは?」
こんな喧嘩っぱやそうな危険な奴、魔王城に踏み込ませるのは危険だ。
勿論、最強の魔王様が負けるとは思ってないが。それでも、魔王様の耳に届かず平和に解決出来るなら、それに越したことはない。
「私はシオンと申します。貴方と同じく道に迷った所存です。あの、魔王城に向かってらっしゃるとの事ですが、何が為に?」
「囚われの姫をお助けに」
囚われの姫?
もしかしてサクラコの事か。
彼女曰く、家での生活にうんざりし家出してきたと言っていたが。まさかお姫様だったとは。
サクラコを返せば、この剣士も魔王城には用は無くなり、引き返してはくれそうだが・・・生憎、サクラコは返してやれない。
何せサクラコ(21歳)は、魔王様(22歳)の番である。先日、契約も無事済まされた。
魔王直下警備団として、私が対処しなくては。正直、煩わしい案件ではあるが、お給金が良い分、関わってしまった以上、放置は出来ない。
「剣士様!お願いがございます」
「何?」
「どうか私を、剣士様の旅に同行させて下さいませ」
「その動機は?」
「動機?えっと、ん~・・・あっそうですっ私が貴方を好きだからって言うのどうですか?」
「明らか今、考えた動機だよな、それ」
どうにかして、剣士にサクラコを諦めさせなければ。
「じゃあさ、毎晩、俺の抱き枕になってくれるってのなら、同行を許可してもいいよ?」
こんの破廉恥剣士め。
嫁入り前だが致し方ない、魔族と人間の平和の為だ。
「操だけは守りますから」
「せいぜい俺に奪われない様に防衛がんばって」
「無理強いしたら、さっきみたいに頭突きかますだけです」
「あれ、まじで痛かったわ、どんな石頭してんだよ」
【プロローグ 終】
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