11、王都であれやこれ

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11、王都であれやこれ

ラビア城、応接室。 王、王妃、サクラコ、ヒカル、ライ・・・とサクラコの婚約者と名乗った男がその場に揃っている。 「まずはライ、この度は感謝する。我が娘を送り届けてくれた事に」 「では、謝礼は頂戴しましたし、俺のお役目はここまでと言う事で。あとは身内で話し合って下さい。俺はこれで失礼させて頂こうかと、待ち人も居ますんで」 王の礼の言葉も、ライは軽く流す。 それよりも、めんどくさそうな予感がし、ライは出来ればさっさとこの場から離れてしまいたかった。 が、ヒカルに肩をグッと抑えられ、黒い笑顔で凄まれたーーーー逃げんなよ、と。 ***** 王都では、ちょっとした賑わいが起きていた。 “氷”の剣士のライが、行方知らずとなっていた末姫様を連れ、訪れていると。 ライ、ヒカル、サクラコの三人は、ラビア城へと出向き、シオンは一人、本来の任務である「魔族の好感度調査」に精を出していた。 現在王都は、人6割、魔族4割で成り立っている事もあり、魔族への好感度はかなり良い。むしろ、今回尋ねた人の中で、魔族を悪く言う人は一人も居なかった。 唯一、尋ねた人が連れていた子供が「魔族は色んな事が出来て狡い」と言っていたぐらいだろうか。その子供は両親から頬を抓られていた。 王都に辿り着くまでは長旅で色々あったが、調査事態は滞りなく進み、シオンは調査報告書をレモンに託し、任務終了とした。 ひと段落着いた所で、昼食を何にしようか探していたシオンの元に、ちょうど美味しそうな香ばしい匂いが届き、釣られるがままにそのお店へと足を向けた。 「いらっしゃい」 溌剌とした声の女主人が、シオンを出迎える。 家族向けの広々席もあるが、シオンは一人掛け用の長机の端の席へと座る。 どうやら焼き鳥を売りにするお店らしい。 「新顔だね」 「えぇ、ちょっと仕事で王都へ」 「見る所沢山あるからね、どうせなら観光しておいきよ・・・って、お嬢さん、その首の」 女主人がシオンの銀鎖に目を止めた。 「いや、何でもないよ。そんな訳ないさね。ちょっと、知り合いが常備している代物に似ていた物だったもので、ついね。で、お嬢さん、注文はどうする?」 「そうですね、ではお勧めで」 「うちのはどれも絶品だよ、ちょっと待ってな」 豪快な笑みを残し、女主人はその場から去っていく。 今頃どうしてるかな・・・なんて、シオンはラビア城に出向いた三人の事が心配になる。 その時、店の外が急に暗くなり、あんなに晴天だったと言うのに、雷鳴が響き、落雷までもが発生し始めた。 「ま、魔王、さま?」 その発生の原因が、おそらくではあるが、自分の敬愛する魔王ではないかと、シオンは即座に疑う。 魔王であるヒカルは、サクラコが絡むと魔力制御を誤り、天候までも誤作動させてしまう時がある。 ・・・シオンは自分の憶測を、気にし過ぎだ、と言う事にし、料理が来るのを静かに待った。 ほんの一瞬の空の変化。 今はもう、晴れやかな空模様に戻っている。 「はいよ、お待ちどう。今の天気の荒れ具合は一体何だったのかね」 「さぁ、何だったんでしょうね。わぁ、良い匂い、いただきます」 シオンは、焼き鳥を一口頬張る。 タレの甘塩っぱさが焼いた鶏肉に絡まって、感じた事のない美味しさに、シオンの表情が輝く。 「嬉しい笑顔を見せてくれるね、お嬢さん。ほれ、新顔さんにおまけだ、うち独自で提供している葡萄果汁だよ」 「有難うございます」 女主人が出してくれた葡萄果汁を、シオンは喜んで受け取る。 暫く、焼き鳥に舌鼓になっていると、ガヤガヤと団体客が入って来た。 その団体客の中には、人間図鑑に掲載されている強者の顔が数人居る事に、シオンは気付く。 「ライ様が今、王都にいらしてるとは本当ですか?お久しぶりにお会いしたいです」 「俺はあいつと、一戦交えたぜ」 「流石だよなライは。姫様を連れ戻すなんてさ」 「噂じゃ、その姫とライが、番契約したってされてるよな」 「まさか、あのライに限って有り得ないって。体はともかく、心は常に本命一途じゃんよ」 「そこがライの素敵な所なのよね。閨の相手に対しても、口付けを許さぬ姿勢と、朝まで一緒に過ごすなんて事、絶対しないんだもの」 「あら、私は諦めてないわよ。いづれライの心を奪って、そして朝焼けをライと一緒に眺めてみせるだから」 「でもさ、この前ケンゴに会った時、可笑しな事、言ってんだよな。ライが女と行動を共にし、雰囲気も様変わりしてたって」 「ケンゴだろ?ライに相手にされずホラを吹いてんだよアイツ」 「ここライのお気にの店だしさ、もし本当に王都に居るんだったらさ、此処で待ってたら会えるんじゃね?」 パンパン。 女主人が手を叩き、大きな音を出す。 「待ってるのは自由だが、他の客もいるんだ、静かに出来ない様なら追い出すからね」 騒がしくしていたのが嘘の様に、それぞれから「はい」と小さな声が鳴る。 人間図鑑に載る様な大物を一瞬で黙らす女主人の迫力。 シオンはそれを、葡萄果汁をコクコク飲みながら、ふわふわ気分で眺めていた。 「おかみさん、らいってここのお店に、よくくゆんですか?」 「お嬢ちゃんもライを知ってるのかい?そりゃ知ってるか、アイツ有名人だからね。まぁ、王都に寄った時は通ってくれる事が多いかな。って、お嬢ちゃん、大丈夫かい?舌が回ってない様だけど」 「ん?だいじょうぶですよ」 「可愛いお嬢さんだね、葡萄果汁で酔っちまったかい。ま、眠たかったら寝ちまいな」 女主人は枕と毛布を持ってくると、まだ頑張っているシオンの横へと備えた。 .
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