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「ラビア王、王妃様。もっと早く伺うべきだったと反省しております。誠に申し訳ありませんでした」
「お父様、ヒカル君は悪くないの!?ヒカル君は何度も私に王都へ戻る様に促してくれていたのよ、それを私が嫌々言っていただけなの」
サクラコが慌てて擁護するも、ヒカルは、サクラコの父と母である王と王妃に向かい、丁寧に頭を下げる。
「顔を上げてくれ、ヒカル殿。元々は、私達がサクラコを追い詰めたのが原因。寧ろ感謝しているぐらいだ、娘を保護してくれた事に。そして、娘が迷惑を掛けてしまった旨、父として謝罪させて欲しい」
「勿体無いお言葉です。俺はただ、サクラコを愛でさせて頂いていただけですので。そして願わくば、これからもと思ってる所存です」
意思の強い確かな瞳で、ヒカルは王へと告げる。
王も、表情は変わらない。
サクラコから手紙が届いた時点で、既に覚悟は決まっていたのだろう。
「サクラコの人生だ。私達がでしゃばるつもりはない。それに、また所在が分からなくなってしまっても困るからね。どうやら私達の可愛い淑やか姫は、とんだ跳ねっ返り娘だった様だ」
「っお父様」
嬉しそうに父に抱きつくサクラコ。
これで一件落着かと思いきや・・・。
「俺はこんなの認めない」
突如、サクラコの婚約者であるユウイチが、挑発的な視線と言葉をヒカルに向ける。
「サクラコ様と俺は既に、風呂を一緒に入った事もあるし、一緒に夜を過ごした事もある中だ」
応接室の空気が急に寒く澱み、窓から注がれていた光は途切れる。
空が暗雲立ち込め、稲光が走り出す。
「ヒカル君、落ち着いて!!ちょ、ユウ君もいきなり何言ってんのっ!!」
「本当の事だろ。サクラコ様の唇を初めて奪ったのも俺だし」
「お願い、それ以上ヒカル君を煽らないで!!そもそも全部子供の頃の話でしょ!!?」
「可愛いサクラコ様を、悪鬼魔王、貴様などに誰がやるか!!」
ユウイチが、これ以上ヒカルの逆鱗に触れる言動をしない様に必死に嗜めるサクラコ。
なんてったって、この後、怒れたヒカルの溺甘暴走を受けるのは自分なのだ。
近くで、その様子を見ているライは冷静にこう思うーーーー魔王に面と向かって喧嘩売れるユウイチは、ある意味勇者だな、と。
*****
「にゃいのばぁか」
「うん、うん、切ないね」
5剣士の一人“猫”の名称を持つ女剣士・カナが、シオンの隣の席で一緒に酒を飲んでいた。
シオンは先程からずっと、うにゃうにゃ喋りで呂律が回っていない。
「わらしは、にゃい、好きだけど、にゃいは、ちがうの(訳:私はライが好きだけど、ライは違うの)」
「そうよね、好きな人が、自分を見てくれないのって辛いわよね」
「にゃいにや、好きな人いてね、わらし、そっくい、なんらって。にゃいは、しょの人が、わしゅれられないかや、わらしにかまってくゆし、わらしの事をね「しゅき」っていうにょ(訳:ライには好きな人が居てね。私にそっくりなんだって。ライはその人が忘れられないから、私に構ってくるし、私の事を「好き」って言うの)」
「ほんと、昔の女って厄介よね、さっさと忘れて次の恋に進めばいいのにって私も思うわ。本当に好いた男だと、体の関係だけじゃとても切なくて苦しいのよね」
「にゃいは、えっち、らけろ、わらちとね、いっちぇんはこえにゃいの(訳:ライはエッチだけど、私とね一線は超えないの)」
「あらそうなの、それじゃ、とても苦しわね。好きな男とはやっぱりどうしても、繋がりたいと、思ってしまうものよね、心も、体も」
「・・・ぅん。ねもね、やっぱい、いっちょいちゃいの(訳:うん。でもね、やっぱり一緒に居たいの)」
「そうね」
「まちゃ、ぽい、しゃえゆのかな。ややな(訳:また、ぽい、されるかな。嫌だな)」
頭を前後左右に揺らしながらも頑張ってお喋りしていたシオンだが、限界を迎え、女店主が事前に用意してくれていた枕に頭を落とした。
カナは、毛布をシオンの肩へと、そっと掛ける。
他の席で酒を飲んでいたカナの仲間の男が側に寄り、呆れ口調で言う。
「お前、この彼女が言っていた言葉、よく理解出来たな」
「何となくよ。ほんと、恋する子って、意地らしくて可愛いわ。にしても、こんな可愛い子の恋心を弄ぶなんて、許せないわね、その相手」
カナがシオンの髪を撫でれば、シオンの寝顔がフニャリと緩む。
「あら、可愛い」
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