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「お前たちの絡れ喧嘩のおかげで、だいぶシオンの所に戻るのが遅くなったじゃねぇか」
ラビア城でヒカルとユウイチの歪み合い喧嘩が目処がたった頃には、既に陽が傾きだしていた。
もう時期、暗くなる。
ヒカルの表情は、まだ納得いってなさそうな不機嫌面だ。
シオンの言っていた事をライは思い出すーーーー魔王はサクラコに男が絡むと可愛くなると。
シオンが、俺をヒカルの元へ出向かせたくなかったのもちょっと頷けるな、とライは微笑を落とす。
不機嫌なヒカルの横では、そんなヒカルと真逆の、王都の賑やかな様子に興味を唆られ楽しそうにしているサクラコがいる。
「いいんですか?姫様。今日くらい、お城で家族団欒しても良かったのでは?王様も王妃様、城をお暇する時、どこか寂しげな様子をしておられましたよ」
「分かってないな、ライ君は。うちは、その家族団欒が物凄く大規模になっちゃうのよ、一瞬で色んなお家の方々が集まっちゃうんだから。その度に『清楚なお人形』として他者から視線や言葉が注がれてさ・・・ほんと、苦手。でも小さい時は、私が褒められて嬉しそうなお父様とお母様を見る度、その型に嵌まらなきゃって頑張ってたのよ」
「頑張り屋さんだったんですね、姫様は」
「だからね、魔王城に居る時、ヒカル君に好意を向ける女の子達の、私を嫌悪する態度がとても新鮮で楽しかったのよね」
「それはそれは」
「でも、シオンちゃんだけは私に常に優しかったのよ。ヒカル君、一応魔王と言う立場だから忙しかったし、私が生活に困らない様に、寂しがらない様に、シオンちゃんがいつも傍らで面倒をみてくれていたの。魔王城では、ヒカル君よりシオンちゃんの優しさにときめく事の方が多かったな私。さ、早くシオンちゃんの所に向かお」
「そうですね」
ライは指笛を鳴らす。
するとレモンが何処からともなく飛んできて、キュッキュッ歌を奏でながら嬉しそうにライの肩に止まる。
レモンはシオンの相棒だが、ライともすっかり仲良しだ。
「レモン、シオンの場所分かるか?」
「キュ」
「よし、じゃ、案内頼む」
レモンの嘴案内の元辿り着いた場所は、ライが王都を訪れる度に顔を出す、馴染みの焼き鳥が旨い飲み屋だった。
因みに、ヒカルの機嫌は今だ直らず、おどろおどろしい顔付きになったままである。
*****
「この寝ちまった可愛いお客さんをどうするかな。強引に起こすのも可哀想だしね」
「お代は私が出すわ、可愛い愚痴を聞かせて貰ったお礼に。何なら、私たちが予約した宿に一緒に連れて帰ってもいいし」
「女剣士様のカナ嬢がそう言ってくれるなら安心だ、任せるよ」
カナの申し出に、焼き鳥屋の女店主はシオンの睡眠を邪魔せずに済んだと笑う。
そこに新たな来客。
待ち望んだ顔に、店が一気に活気に溢れる。
「ライ!」
「ライ様~」
「ようやく来たか、氷の剣士!!」
ライの回りに出来る人だかり。
まだ完全に陽が落ち切る前だと言うのに、既に酒に酔わされてる者も多い。
ドン!!
女店主が机を叩き、睨みを聞かせながら一言・・・。
「騒がしいよ」
「はい、御免なさい」
小さい謝罪の言葉がちらほら聞こえ、店の雰囲気に落ち着きが戻る。
「いらっしゃい、ライ。いつものでいいかい?」
「すいませんスオウさん。飲みに来たんじゃないんで」
スオウは、女店主の名である。
スオウの瞳に、ライと一緒に店に来た若い男女の姿が映る。
「おや、お連れさんと一緒だね」
「あぁ一応紹介しとく。魔王のヒカルと、ラビア国末姫のサクラコ様だ」
ライはふざけた様子もなく、難なく言って退ける。
予期せぬ、とんでも無い来客二名に、一気に静まりかえる店内。
そして、その場に居合わせた数人が同じ思考を持つーーーーライと末姫様が番契約した、と言う噂は本当だったのではないかと。
常に哀しく冷めた空気を纏い、切れ味抜群な眼をしていた゛氷゛の剣士様、ライ。
なのに今、その場に居るライからは、以前の赴きが全く感じられない。
力が入って強面だった表情は何処へ消えたのか、とても柔らかく解れている。
ライに、何かしらの心の変化が訪れたであろう事は、ライを知る誰しもが、簡単に予想が付いた。
腹の虫はまだまだ収まっていないが、ヒカルは、先導者として万人受けする笑顔を携える。
「ライの友人のヒカルです、どうぞお見知り置きを。それと、勘違いなされません様に、サクラコは、俺の番ですので」
ヒカルは、己の独占欲を隠す事無く、サクラコを抱き寄せ、そう告げた。
素直過ぎるヒカルに、ライとサクラコからは苦笑いが漏れる。
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