11、王都であれやこれ

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ライは店内を見廻す。 目的の人物は、長机の端の席に座り、顔を伏せている。 「よぉ、カナ、久しぶりだな」 「珍しいじゃない、アンタの方から私に話掛けて来るなんて。言っとくけど、アンタには私、全く興味ないからね」 「知ってるよ」 カナは、何に対しても可愛い物好きな剣士である。 “猫”の名称も、気に入った相手を猫可愛がりする所から来ている。 「可愛い子を愛でながら、折角いい気分で飲んでるんだから邪魔しないでくれる。アンタに構って貰いたい奴らなんて他に幾らでもいるんだから、其方の相手してたらいいでしょ」 「愛でたくなる気持ちは分かるが、他を当たって貰えるか」 「は?」 ライは、カナの隣で眠っているシオンを簡単に攫い、自分の懐へと抱え込む。 ライの腕にシオンの重みが乗り、コテンっとシオンの頭は、ライの肩へと寄り掛かる。 移動させられた揺れのせいか、シオンは重たい瞼を少し持ち上げる。 「にゃい?」 「悪いな、待たせた」 「にゃいだ~」 ライの首に、シオンの腕が巻き付く。 ご機嫌な様子で、ぎゅうっと力を込め、自分に甘え出すシオン。 カナは溜息を付き、何となく全貌を察っする。 「暫く見ない間に、氷の剣士とあろう者が、随分と締まりの無いゆるゆるな顔する様になったじゃない。どうやら、そのお嬢さんを弄んでる訳じゃなさそうね」 「ん?当たり前だろ」 「もしそうなら、今此処で、アンタに決闘を申し込んでいる所だったわ。可愛い子を泣かせる奴は、誰であろうと敵だもの」 「泣いてたのか?」 「いいえ、ただ、可愛い愚痴を聞かせて貰っていただけよ。ライさ、そのお嬢さん、捨てた事あるの?」 「・・・ある」 「やっぱり、決闘、申し込むべきかしら?」 「反省してるよ」 「その娘、ライの事、一切信用してないわよ」 「知ってる。俺が悪い、焦らず口説いていくつもりだ」 「手っ取り早く抱いてあげれば?口だけじゃ、思う様に熱が伝わらない時だってあるのよ」 「あ~うん、まぁ、そうなんだけどさ」 「何?お手のものでしょ?」 ライは返す言葉を濁し、何故か空虚を見る。 「く、く、くっ。カナさんでしたっけ?ごめん、その話題止めてあげていい?本人が一番、思い悩んでるから」 「そう言う所は可愛いよねライ君。ははっ」 ライとカナの会話を聞いていたヒカルとサクラコが口を挟み、愉快そうに笑い出す。 「笑うな。俺だって出来るもんならそうしてる。だけど、シオンの反応が一々可愛すぎて、途中棄権に何だよ毎度」 「まさか、本命には臆する奴だったとはね、私も笑いたいわ」 今夜は酒のつまみに事きれなさそうだなと、カナは上機嫌に手元の酒を一口呑む。 「とりあえず、シオンの面倒見てくれてた事には感謝するよ、カナ。一人で心細い思いさせてたんじゃないかと心配だったからさ」 「随分と過保護なのね。それよりそのお嬢さん、魔族の娘よね。相当強いでしょ」 「分かるのか、流石だな」 「可愛くて強い子は大好きだもの。どんな可憐な動きを披露し、魅いせてくれるか、想像するだけでも楽しいわ。お持ち帰りして、一戦、手合わせをお願いしたかったんだけど、仕方ないわね」 「それは諦めろ。シオンはお前の様な戦闘狂と違って、力比べに興味はないよ」 「ライと同じって訳ね」 「俺なんかよりも、遥に強くて優しいよ、シオンは。じゃ、俺達はこれで」 ライは片手だけでシオンを抱え、もう片手でシオンが頼んだであろうお代以上の通貨を台に置く。 「スオウさん、今日の所はこれで失礼します、お騒がせしてすいませんでした」 「いいさね。銀鎖を見た時は、まさかとは思ってたけど、本当にまさかだったとはね。また、そのお嬢さん連れていつでもおいで」 「是非。そん時は、こいつに酒を勧めるのだけは勘弁して下さいね」 「あぁ、覚えとく」 ヒカルとサクラコも笑顔で軽く会釈をしたのち、お店を後にするライに続く。 四人がお店を出て一呼吸後に、盛大な発狂が響き渡っていた。 「ライ。俺、暫く魔王業務を有給で休む事にした。少し、サクラコとラビア国を二人で旅して回ろうかと思ってる」 「そっか、ま、楽しんでくれ。俺はヒカルには返しきれない恩がある、何か頼み事がある時は遠慮なく言ってくれ、速攻引き受けるからさ」 「では、恩人としてではなく友人として頼みがある。シオンは警備隊として任務をこれからもこなして行くと思う、シオンが寿退社するまで、シオンの補佐役兼、警護を買って出てくれないか?」 「頼みでも何でもないだろそれは。シオン、ヒカルの下で働くの誇りに思ってるし、寿退社してくれるかな」 「どうだろうな。これから先の事は、二人で決めて行く事だ」 「だな」 安心した寝顔でスヤスヤ眠るシオンに、ライは優しく目線を落とした。 ***** 翌朝、王都を離れ、別れ道。 落ち込むシオンの頭を、ヒカルが撫でる。 「お遣い、任せたぞ、シオン」 「はい。魔王様とサクラコも、道中お気を付けて」 「シオンちゃん大好きよ。またね」 サクラコはお別れの口付けを、シオンの頬へと贈る。 ヒカルとサクラコは、二人だけの旅に出発して行った。 シオンは、新しい任務として、ヒカルから預かった物を届けに、魔鳥が行き来出来ない辺境地へと向かう。 「さて、俺達も行こ、シオン。ヒカルのお遣い、さっさと済まそうぜ」 「一つ疑問、なんでライが当然の様に私と一緒に行く流れになってるの?ライの旅の目的って、サクラコをラビア城に送り届けて終いの筈でしょ」 「まぁ、そうなんだけどさ、別にいいだろ?俺が一緒でも」 「私の任務に付いて来る動機は?」 「シオンさん、面白がって聞いてるだろ。いつぞやの立場逆転になってますが」 「ふふ、まぁね。動機、教えて」 「俺が、シオンの事を愛しくて堪らないからですよ。言っとくけど、シオンと違って、その場の思い付きの作り話じゃないからね」 「うん、ありがと、嬉しい」 「信じてないだろ」 「信じたいけどね。行こ、ライ」 進み出そうとするシオンを背後から抱き寄せ、ライは耳元で怪しく囁く。 「今度は、俺がシオンの抱き枕になる番な。好きに抱き締めていいからね」 「そ、そんな交換条件、私は出しませんから!」 「はは、冗談だよ」 「ライが言うと、冗談に聞こえないの」 「まぁ、七割方は本気だしな」 「本気の配分多くない。でも、時々は・・・抱き締めさせて、欲しいかな、とは思うけど」 「やっぱ、シオンは小悪魔だわ。情緒が持ってかれる、かわいっ」 シオンは、ライに抱きつかれたまま中々離して貰えず、お遣いが始められずにいた。 第十一話「王都であれやこれ」終
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