2、真面目魔族は隠し事が出来ない

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宿の温泉にも浸かり、浴衣姿で指定された部屋へと入る。 一組しか用意されてない布団を眺め、ある意味、ライが女将さんにした提案は正解だったな、なんてシオンは思う。 おそらく、ライはもうシオンに関わってこない。 職業を知られてしまった。 姫の奪還を狙うライにとって、魔王様と関わりのある私はいわば厄介者だ。 「・・・もう寝よ」 よく日干しされている柔らかい布団にシオンは潜る。 そして自己嫌悪に陥る。 私の阿保!どうしてあの場面でレモン(檸檬色の魔鳥の名前)を呼んじゃうかな私は!! あの魔族の強盗を一時的にどっかに隔離して、文を飛ばして警備隊の仲間に知らせる事だって出来たのに。 でもでも、怯える村人や観光客達の不安を少しでも早く解消するには、レモンに強盗を託すのが一番最短ルートだったし。 申し訳ありません魔王様、私はまだまだ未熟な魔族です。 魔王様のお役に立ちたいのに、上手に立ち回れません。 ・・・魔王様に幻滅されたらどうしよ。 せめて、明日の早朝、魔王様宛に知らせの文を飛ばそう。 『剣士ライが魔王城に向かってます』と。 多忙な魔王様に知られず、私一人で解決したかったが、どでかい熊を片手で軽々止めてしまえる相手に、私が力任せ手法を使ったとて敵う分もない。 でも、ライでまだ良かった。 ライは悪い奴じゃなさそうだ・・・サクラコの奪取も、きっと穏便な方法を考えてくれると思う・・・まぁ、魔王様相手に、成功はしないだろうけど。 私は任務に戻り、王都を目指そ。 ***** 「・・・ユキ」 眠るシオンの頬に微かに触れながら、ライは呟く。 そして、シオンを起こさぬ様に静かに布団の中へと入り、シオンを抱きすくめた。 シオンの菫色の髪を撫で、瞼に口付ける。 瞼の奥に隠れてる群青色の瞳を、今すぐ拝見したくて堪らない。 ーーーどうして今、此処に居るのが『ユキ』じゃないのだろう。 シオンを、もう何処にも居やしない自分の恋人と重ね合わせ、愚かな事を思う。 ライは脳裏に甦る幸せな映像に、奥歯を噛み締め耐えた。 「似過ぎだろ」 昨日、森の中で眠るシオンを見つけた時、愕然とした。 寝返りを打って動く仕草に、涙を抑える事が出来なかった。 目を覚ましたシオンには更に驚かされた。 独特の群青色の瞳も、弾ける愛らしい声も、彼女とブレる事なく酷似している様に。 まるで、彼女が生き返ったんじゃないかと、都合の良い妄想に取り憑かれそうになる。 「分かってるさ、どんなに似てても、君はユキじゃない」 ***** 昨日に続き、窮屈感でシオンは目を覚ます。 「なんで居る?」 「ん?おはよ、シオン。なんでって、俺との旅続けんなら、抱き枕になって貰わないと」 「続けられるのに越した事はないが、私はライを好いて旅の同行を志願した訳じゃないって事、もう分かっているのでしょ?と言うか、離せっ」 足をバタつかせても、腕を突っぱねて離れようとしても、一切抱擁が緩まない。 「シオンが警備隊だろうが、魔王の仲間だろうが、どんな目的を持っていようが、俺にはどうでもいいよ、なんの影響にもならない。一人旅で退屈してたし、シオンで暫く遊ばせて貰うのも悪くないかなって」 「・・・それはつまりあれか?私が弱いから、取るにたらない存在で、厄介者にするに当たらないと?」 「あ~、ん~、そう言う事」 随分と下に見られたのものだなっと腹が立つ気持ちもある。 けど今のシオンは、魔王から幻滅されずに済んだ事への安堵感の方が上回っていた。 「ライ、私の目的は、貴方にサクラコを諦めて貰う事。絶対に、魔王城にもサクラコにも近づかせない。親愛する魔王様の為に」 「はいはい、頑張れ。今はさ、朝のまったり感を一緒に満喫しよ」 ライは、シオンに覆い被さる様に抱きしめ、再び寝る準備をとる。 男慣れしてないシオンは焦りもがこうとするが、暴れる距離すら作らせて貰えず。 否応がなしに、シオンは二度寝するライに付き合わされる道しか残されていなかった。 .
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