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迷走
恵留から、引っ越すと告げられた日から1年経った。
結局あれから恵留と話したことは、引っ越しの事と、行ってらっしゃいだけだった。
それから僕は、恵留の事だけ考えていた。
数学の先生に怒られても、勉強をしてても、通学をしていても、何もやる気が起きなかった。
「悲しそうだったな。」
そうだった。サヨナラをする時、恵留の目は悲哀を隠していた。
「最後まで嘯くなよ。」
そんなことを誰にも聞かれずに話していた。
気づいたら、終電まで来ていた。
「は?」
「は、なんで、学校に行こうとして、それで、えっと、
アイツのこと考えてて。」
誰に言うわけでもなく、言い訳を唱えていると。
「お兄ちゃん、ごめんねえここ終電だから、退いてくれると助かるんだわ。」
と車掌さんに怒られてしまった。
「あー、お兄ちゃんみたいな子が去年の夏にも来たよ。
考え込んで、死にそうな顔してる子。」
「は!、その子はなんて名前ですか?」
「んー、なんだったかな、その時はわからなかったんだけど、ポスターに、恵留って書いてあったかな?」
「車掌さん、そのポスターってどこにありますか?」
「どこって、ソコに言ったところにあるよ。」
「ありがとうございます!」
その車掌さんの顔は見れなかったが、きっと呆れていただろう。
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