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桜が窓から入ってくる。
あのどことなく気持ち良い風が頬をかすめた。
四月、僕は中学生になった。
制服のせいか少し大人に見える同級生たち。
すぐに下を向く。
四秒以上見つめると、呪いのようなアイツが現れる。
心臓をギュッとされるような、冷や汗が止まらないような、
あの気持ちに戻りたくない。
長い前髪の下で、息を整える。
その瞬間、目の前に誰かやってきた。
「こんにちは」
おずおずと前を向くと、知らないクラスメイトが立っている。
「渡辺行人っていうよ。よろしくね。」
わたなべ、ゆきと。
少し難しくて?を浮かべて顔を見上げると、
彼の頭上にはバツ印があった。
ひとまずホッとする。
どういう漢字を書くのか彼に問いかけた。
彼はいらない紙に達筆な字で渡辺行人と書く。
「僕は雪村兆。兆って書いてきざしって読む。」
そう端的に言うと、カッケーなと言ってくる。
恥ずかしくて俯くと、さっき吹いてきた桜が微笑んでいるように見えた。
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