On the other hand -一方-

8/9
前へ
/34ページ
次へ
今回の兆はいつもの兆とは違って、腕時計がお気に入りだった。 いつもならゲームなんだけどなぁと思いつつ、ちょっと高めの腕時計を購入した。 兆は喜んでくれるだろう。 笑顔を想像するだけで、心が弾む。 いつものファストフード店。 他愛ないことをダラダラと話す。 それでも、兆はちゃんと聞いて相槌を返してくれる。 話が終わった時、珍しく兆が口を開いた。 「明日、君が死ぬんだって」 ワナワナと震えている。 俺は、そっか、って思ってしまった。 『死』んでも、戻れるから。 『死』はゲームのコンティニューと同じだ。 それぐらい軽いものに見えていた。 でも、せっかく買った腕時計だけは渡したい。 色の無い返事を返したけど、 明日は生き抜いてやるという気持ちだった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加