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「修一くん、俺、修一くんのこと好きだよ。一生、修一くんのためだけにごはんを作り続けたい。修一くんの細胞を全部俺の作った食べ物の栄養素だけで構成させたい。修一くん、見た目ドストライクな上、あの晩、俺の作った惣菜食べてた姿がソソりまくって、もうたまらなかったんだよ。もちろん欲抜きでも、これからもっとお互いのこと知って、分かっていきたい。……だから、俺のこと修一くんも好きになってほしい。俺が出来ることなら何でもするから」
途中から懇願するような声になった。修一は胸が苦しくなる。
本当なら奏太を受け入れたい。ここまで自分を慮って心を寄せてくれる相手、他に見つかるだろうかとも思う。
だけれど、どうしてもネガティブな想定がずっとつきまとってくる。
そもそも奏太と実際に顔を合わせたのは、つい1ヶ月前、今日で二回目だ。
(……どうして、奏太はこうまで俺に心を向けられるんだ?)
修一は、それを拒めない自分も不可解に思う。
そしてふと気付いた。
触れあっている部分から、じわじわと暖かさが広がっていることに。
体温だけではない。心もだ。
その優しい熱は、青木に抱かれているときには決して感じることなどなかった。
マイナス要因からくる不安と、この暖かな熱がもたらしてくれる安堵。相反する気持ちが修一を立ち止まらせていた。
ふるふると頭を横に振る。何かを吐き出してしまいそうな衝動をこらえながら、なんとか言葉を絞り出した。
「……正直、お前の気持ちは嬉しい」
「えっ!」
嬉しそうな奏太。だが、次の言葉でそれは萎んでいく。
「だが、俺はどうしても最悪の事態を想定して動いてしまう。お前を危険に晒したり、不利益を被る事態になったとしたら、俺は一生自分自身を許せない。憎悪や殺意すら持つだろう」
奏太は身体を離して、真剣な面持ちで修一の言葉を聞いている。
どうして、心臓が痛いほどに緊張しているのだろう。
「だから……、……っ」
俺とお前の安寧の為に、もう関係を持たない方がいい。
たったこれだけ、そう言うだけだ。
なのに、口が動かない。声帯が震えない。声を出すための肺と思考が働かない。
「……ねえ、修くん」
奏太が、まるで幼い子供をあやすように、宥めるように、咎めるように声をかけてきた。
「修くんが俺に抱いてる感情は、ただの『そーた』の一ファンに対して? それとも、『佐々木奏太』という一個人に対して?」
「っ……」
そう言われて、修一は困った。
最初は確かに『そーた』としてしか、彼を見ていなかった。
だけれど今晩、彼の想いの強さを徐々に目の当たりにして、それが揺らいでいるのは事実だ。
「……わから、ない」
「分からない」
「だ、だって、俺は今まで……恋愛なんか、したことないんだ」
「ほほう」
恥ずかしい、顔から火が出そうだ。
それでもこれは言わなければならないのだろう。
「……お、お前の料理をもっと食いたい。お前が五体満足で料理している様を見ているだけで満たされる。俺は、それで満足なんだ。……その、はずなのに」
ぎち、とソファーに爪を立ててしまう。
「げ、言語化できない、重苦しくて、ぐるぐるするものが、胸に渦巻いて、息苦しい。愛だの恋だの、そんなもの、醜悪なもののはずなのに」
修一は初恋もまともにしたことがない。
恐らく近い事例で現すなら、現役時代の父と、父とバディを組んでいた井上、二人の仕事姿だったかもしれない。
一番身近な、職務に誇りをもって臨んでいる大人の男への憧れ。
ネットミーム風に言うなら、「幼年期に父とその相棒に脳を焼かれた子供」だったのだ、修一は。
だから、思春期に周りが恋人を作っていても「ほう」という感想しか出てこなかったし、女子からの秋波にも気付かず、ひたすら勉強と武道の訓練に明け暮れていた。
青木に血なまぐさいほどの執着を向けられて、その根底にある正体が分からなかった。
だが、やたらと性愛をぶつけられ、その合間に気色悪いほどに優しく丁寧な扱いを受け、同じように愛を含んだ言葉を囁かれる。
思春期に恋愛沙汰を全く経験してこなかった修一は、青木のせいで恋愛観をねじ曲げられてしまったのだ。
とうとう、ほたほたと修一は涙を流し始めた。年甲斐もなくしゃくり上げながら、懺悔のように声をひねり出す。
「っ、れは、っ、ひぐっ、そーたにっ……、近づくの、もっ、お、おこがまっ、しい、のに……っ! こ、こんな、っぅ、あぁ……!!」
顔を覆って蹲る修一。
一人の人間としての『奏太』を知ってしまってから、頭の奥底の片隅で、芽生えてしまった想い。
――奏太の料理を独占してみたい。
――奏太ともっと同じく空間にいたい。
――……あわよくば、一瞬でもいいから触れて欲しい。
こんな想い、『そーた』の一ファンである自分が抱くこと自体がグロテスクだ。青木に汚されたくせに、個人的な関係を望むだなど。
修一は一生その考えに苛まれるのだろう。だからこそ、奏太とこれ以上話すのは、互いの為にならない。
そう思っているのに。
「……もういいよ、修一くん」
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