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とんとん、と優しく背を一定の間隔で叩かれる。
「……ごめんね。俺がちょっと急ぎ過ぎたかも。浮かれてたのかな」
「ち、ちが、」
奏太はまた、修一を抱きしめる。今度は柔らかく、包み込むように。
「……あのね。恋愛って、修一くんが絶望視してるほど、悪いモノばっかりじゃないよ。そりゃあ、夢見がちな子供みたいにふわふわな綿飴みたいとか言うつもりなんてこれっぽっちもないけどさ。でも少なくとも俺は今、修一くんに恋して良かったって思ってる。できれば、修一くんにも俺に対してそう思ってほしい」
さら、と手櫛を通しながら、奏太が頭を撫でてきた。
「でも、無理そうなら、まずは試してみるところから始めてみない?」
その提案に、修一は顔を上げ……ようとして、慌てて自分の服で顔と手を拭う。
鼻をすすりながら、ようよう返事をした。
「……ためす、とは?」
涙で歪んだ視界の向こう。奏太が笑った気がした。
おもむろに距離が近づき、そして……。
「? っ、」
二人の唇が合わさった。
軽く吸われ、リップ音と共に解放される。
「こういうこと」
薄く笑う奏太と視線が合う。
後頭部から頬と撫でられ、つぅ……と下唇を彼の右親指でなぞられる。
心と体の温度が徐々に上がっていくのを、修一は自覚した。
もう止められない。こんなに至近距離で密着されて、キスまでされて、全く嫌悪や喜色悪さを感じなかった。
それどころか、もっとしてほしいという欲すら芽生える。
「どう?」
「どう、って……」
はく、と修一は息を吐いた。
そうしないと熱暴走を起こしそうだった。
「いやじゃ……なかった……」
無意識にそう呟いてしまった。
それを聞いた奏太は顔を明るくさせる。
「じゃ、脈ありだ」
そう言って笑う彼に、また修一の心臓が跳ねた。
――ああ、もう、ダメかもしれない。
体中の熱が、高まっていく気がする。心臓がどくどくと跳ね上がる。
思考が、蕩けていく。
「……もう、一回」
蚊が鳴くよりも小さい声で、修一は強請った。
紅潮した顔と潤んだ目になっている自覚はあったので、例え否定したとしてもすぐに分かっただろうが。
奏太はまた修一の頬を撫でると、キスしてきた。
ゆったりと、だけれど何度も、角度を変え、啄み、舌を絡ませ、修一は夢中になった。
(……気、持ち……ぃ、)
キスの合間に、はふ、と熱い呼吸を繰り返す。
ぞくぞくとした甘い痺れに脳が犯されていく。
開発された熟れた体が、勝手に花開いていく。
「ん、……っふ、ぁ……」
ついぞ漏らしたことのないような、あえかな声が自然に出る。
無意識に、両腕を奏太の首に回して縋り付いた。
身も心も、青木の感覚を忘れたがって、奏太とのキスを悦んでいる。
数年に及ぶ軟禁生活のせいで弱り切った心は、守り愛してくれる庇護者を強烈に欲していた。
自分を臆面もなく好きだと言い切った奏太に、そうなってくれるのかと、無意識下で期待してしまっている。
ちゅぱ……、と音を立て、離れていく。二人の間を淫靡な銀糸が繋ぎ、ふつりと切れた。
「んぁ、……は、ぁ……」
脳髄を蕩けさせる甘い痺れに、舌先が追いかけていく。
その様を、奏太は目を細めて見ていた。舌なめずりと共に。
「……すっごいなぁ。ドエロいの権化だよ、今の修一くん」
雄の色気とパートナーへの愛しさに溢れた視線。
修一は、もうそれに抗うだけの理性が残っていなかった。
(……視線に犯される、とはな……)
ぞく、ぞく、と全身に走る快楽。
青木相手には、絶対に感じなかった感覚だ。
――奏太の手が、舌が、唇が、修一という名の食材を洗い、撫で、揉み込み、そして最後には股間にそそり立つであろう奏太の逸物が、好きなだけ貪り食う――
そんな詮無い妄想をしてしまう程に、今の修一は奏太とのセックスに素直になっていた。
だが、今日はその時ではない。
「……そう、た」
「ん?」
はぁ、と一つ息を整える。
これから自分は、とんでもない発言をするだろうという自覚がある。それでも修一は、言うべきだと思ったのだ。
「……今日は、ダメだ。準備をしていない」
「うん」
「……あ、あし、た……。お前の、気が変わって、いなければ……」
そこまで言って、ふい、と目を反らした。
自分から誘っているような物言いになってしまったことに気付いたのだ。
(……も、もう少し、言い方ってものがあるだろうが、俺……!!)
ぼぼぼ、と顔面から火が出そうな程の羞恥心だった。
世の中の青少年は、こういう感情を思春期のうちに通り過ぎているのか。
修一はいたたまれず、また顔を覆う。
くふふ、という奏太の笑い声が聞こえ、頭部をすっぽり抱え込まれた。その勢いで頭を撫でられる。
その感覚に浸ろうとしていると、どくどく、という早めの鼓動が聞こえてきた。
(……緊張か? それとも……興奮?)
と考えていると、頭上から興奮と歓喜に満ちたような声が降ってきた。
「修一くんが可愛すぎてツラいッ!!」
……興奮していただけか? と修一は肩の力を抜く。
それから、もごもごとくぐもった声で、こう呻く。
「………………可愛くない」
えぇ~? という奏太の不満げな声に、修一は密かにため息をついた。
(……俺は今日、眠れるだろうか……)
興奮と羞恥と幸福感と不安とが入り混じって、修一の心は嵐のようだった。
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