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久しいな、ルカ。
本来ならお前に直接会いたいところだったが、警察のケチな野郎共がそれはダメだと止めてきやがった。
仕方ないから、手紙を書く。
お前がポリに何を言ったのか聞かせられた。吐くほど俺のことが強烈に残っているとはな。嬉しい限りだぜ。
しかし、お前のことは手放さざるを得なくなっちまった。
俺のじいさまは、この手のことにやけに厳しい。イロにする相手の気持ちを無視してまで無理矢理手籠めにするな、ってうるせえことねえ。
弁護士についてきたじいさまに、クソ長ぇ説教されちまった。まあこのブタ箱ん中は何もねえからな。娯楽代わりにさせてもらったが。
……さて、うちの組員はカミさんやイロと別れる際、契約書を交わせってことになってる。
お前にはまず、俺のイロだった頃に見聞きしたことは漏らすな、っていう契約書にサインしてもらう。これは全員例外なくしてもらうことになっている。
これをおろそかにしちまったせいで、昔美人局とかが流行っちまったことがあったからな。
こっちも、別れた相手とヨリを戻そうとするなっていう契約書を当代組長と交わすことになってるから安心しろ。
もしそれを破ったことが発覚した場合、組を破門させられておん出されるからな。組に居たい連中はその契約を破らねえように、或いは相手と別れねえようにするために励むってワケよ。
だから、てめえは安心してカタギの世界に戻っていい。
契約書の件に関しては、クソガキの分も含め弁護士に手配してある。あの部屋の名義もお前のものに変更できるが、それは自由にして構わねえ。
中に置いてあるもんも、いるもんは持ってけ。置いてったものは組が処分するだろう。
ルカ、信じられねえかもしれねえが、俺は本当に本気でお前に惚れ込んでたんだ。
お前を初めて見かけたときは、単に活きの良さそうなマッポだとしか思わなかったが、そこに惚れ込んだんだ。
ツラもよくよく見なけりゃ、ヤロウだってのが信じられんレベルの美人だしな。正直なんでマッポなんぞになったのかワケが分からなかったぜ。
俺は本気でお前が欲しかったんだ。だから連れて帰った。最初の頃はお前はそりゃあ暴れて大変だったが、だがその暴れっぷりもなかなかに良かったもんだ。
だがお前は随分大人しくなっちまった。全部に絶望したようになっちまって、俺のことも死んだ魚の目でしか見てこなくなっちまった。
情けねえが、俺がそれに気づいたのはお前が壊れきっちまったあとだった。
体は反応すんのに、ヤる時以外はうんともすんとも言わなくなっちまった、廃人同然になったお前を見て、俺は初めて自分を自分でぶっ殺したくなった。
そんな風にしたいわけじゃあなかった。ただ、お前がヤクを盛られているのに気づかねえまま抱いちまったのが、俺の最初の間違いだったんだろうな。
お前が珍しくヨガり狂ってたから、ようやく体も慣れたんだと思って舞い上がっちまったんだ、俺ぁ。
誓って言うが、俺はお前にヤクを盛ろうだなんぞ考えたことはない。
英治のヤツが仕組んでたんだとしたら、完璧に俺のカントクフユキ届きではあるが。
……じいさまに、説教でボコボコにぶん殴られたよ。
相手の気持ちや望みや立場を考えずにことを進めたから、イロに憎まれるしサツにとっ捕まるんだ、ってな。
つうか、イロにすんのにマッポはねえわ、ともな。
下半身のだらしねえテメエの親父の真似をすんな、が一番堪えたがなぁ……。
……が、本当にその通りだと思ったよ。
取り調べで、お前が言ってたことの録音を聞かされた。まさか、吐くほどとは思っていなかったよ。それで、俺はお前に本気で嫌われてたし憎まれてたと認識させられちまった。
お前にとっちゃ、俺からの謝罪なんぞ今更欲しくもなんともないんだろうな。
だから、俺は今お前が俺に対して一番して欲しいことで謝意を示したい。
もう俺は二度とお前に会わねえ。
カタギの皆様に迷惑はなるべくかけねえ、それが青木組初代から続く教えだからだ。
弁当係のクソガキは正直骨ごとミンチ肉にしてもまだ足りねえが、そんなことをしたらお前を本当にぶっ壊しちまいかねないからな。
それは俺の本意じゃねえから、ガキは見逃すように弁護士とじいさまを通じて組に頼んでおく。お前の両親の監視の解除もな。
だから、お前はカタギの世界で、あの活きが良かった頃のように笑って生きてくれ。
この日本のどこかでお前がそうやって生きていくのが、俺の出来る最後のことだと思ったからだ。
本当に愛していたよ。
達者でな、春川。
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