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menu.7 祝杯はXYZで(3)
【prism-butterfly】、店主都合により本日緊急で貸し切り状態になっている。
理由は明白。たまたま予約客も一見客もいなかったため、紫苑が修一の戦い完結に目処がついた祝杯を上げるためである。
とは言っても、青木老人が置いていった10万円を消費するためでもあるらしい。
ウィスキー、焼酎の水割り、日本酒。おつまみはお通しのナッツのみ。
それだけのオーダーで10万円は流石に少し多かった。
ならばと紫苑が考えたのが、店を貸し切りにして常連しかいない状態を作り出し、好きなカクテル一杯サービスだった。
もちろん、青木老人の置いていった10万円では少し足りないため、そこは店からのサービスと言うことになる。
うまいこと考えたな、と修一は思ったものだ。
今、例のBOX席には、修一と奏太のみ。神谷と後輩は部署に報告するため署に戻って、今はいない。
そして、運ばれてきた目の前にあるカクテルを、修一は奏太の注文したスクリュードライバーと交換する。
XYZ。ホワイトラムをベースにしたカクテル。
奏太は首を傾げ、修一を見てきた。
「修一くん、これ飲みたくて注文したんじゃないの?」
「いや?」
「えっ、じゃあなんで?」
修一自身、浮かれている自身がある。
だからこんなことを思いついてしまったのだろうが。
元から隣同士に座っていたが、更に距離を寄せて密着する。
奏太の右手を握って、耳元に顔を寄せた。
「――……このカクテルの意味、知っているか?」
わざと吐息を多めに囁く。
一瞬奏太が肩をビクつかせたが、「知らない」と答えてきた。
(……ああ、本当に浮かれているな、俺は)
カウンターの方から視線が飛んできているような気がするが、気にしない。
そもそも、ここは恋人同士ならお触り黙認の店だ。
もちろん、キス以上のことをしたいなら帰るかホテルに行けと叩き出されるが。
唇が奏太の耳に触れるか触れないかの距離で、しなっぽく聞こえるような声を作る。
これで合っているのか疑問に思いつつも、修一は囁いた。
「〝永遠にあなたのもの〟……というらしい」
ちなみに、奏太の頼んだスクリュードライバーは〝あなたに心を奪われた〟だ。
なんと今の自分たちにぴったりであるだろうか。
「……俺の心、飲んでくれるか?」
囁き終わってから離れると、奏太は素早くグラスを手に取った。
「早く飲もう今すぐ飲もうそんで帰ろう。修一くんが可愛いことしてくれるせいで、俺のソータちゃんがもう辛抱たまらないって完勃ちしちゃったんだよね」
奏太は僅かに脚を開いて自らの股間を指す。
修一は見る。確かに、彼のジーンズは立派に盛り上がっていた。
ゾクゾク、と背が快感に粟立つ。
青木のせいで他人の逸物などただ気味が悪いモノと思っていたが、奏太のソレには全くそういう感情が湧かない。
むしろ、早く繋がりたくて仕方ない。
だがここはキス以上のお触り厳禁のバーだ。修一はスクリュードライバーのグラスを手に取りながら、恋人を宥める。
「ここではダメだぞ。あと、残念ながらお預けだ」
「えっ!?」
奏太の驚いた声に、一瞬店内が静まりかえる。
「後は帰ってひたすらベッドの中でくんずほぐれつモガガ!?」
ぱしん、と修一は手で奏太の口を塞ぐ。
「今から帰って準備もしたら、寝れるのが何時になると思うんだ?」
学生の頃に同級生が見ていたグラビアモデルのポーズを思い出しながら、こてんと小首を傾げながら言う。
「だから、明日……な?」
奏太は口を塞がれたまま、こくこくと頷いた。
(こういう仕草を見ると、年下という印象が強くなるなあ)
どこか奏太を可愛く思いながら、修一は手を離した。
ふはぁ、と息をついた奏太はグラスを掲げる。
「じゃあ、せめて乾杯は普通にやって、ゆっくりお酒楽しんで帰ろ。せっかくだし」
「ああ、そうだな」
チン、と二人のカクテルグラスが鳴る。
それはまるで、祝福の鐘のようだった。
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