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だがそれは、決して嫌なものとは感じなかった。
体も、心も、ついでに胃袋も、全て奏太に満たしてほしいと願ったから。
そういう思いが無意識に芽生えたのは、この部屋で唇を交わしてから。それが意識上で花開いたのは、たった今。
(奏太はきっと、俺を乱暴には扱わない。俺が本気で嫌がれば、手を止めてくれる……)
そう自分に言い聞かせる。
奏太の思いや想定が自分と少し食い違っていたとしても、話し合いの場を設けたり、改善点を共に探ってくれると信じているから。
そして何より、愛情と食によって、青木の存在を殺してくれると信じている。
だから、体を起こした時点で、奏太に抱きついた。そして、キスで遮られた言葉の続きを告げる。
「……俺を……お前の隣においてくれ……」
一瞬訪れた静寂。
何か間違えただろうか、とひやりとした瞬間。
奏太の腕の力が強まった。
ぎゅっと抱き締めてくるその感触に、修一は一瞬面食らう。
ゆっくりと奏太が視線を合わせてきた。頬が色づき、目の色が少し変わっている。
「……嬉しいよ、修一くん」
ゆっくりと話し出した声音は、興奮が抑えきれないように震えていた。
奏太の嗜好にとっては造形美の頂点にいるような男が、自分の腕の中に収まっているのだから。
「俺、嬉しさと修一くん可愛さのあまり、ちょっと激しくしちゃうかもしれないけど、許してくれる?」
わざとらしい、おどけたような口ぶり。
だがそれは、奏太なりの逃げ道を示してくれたのだと修一は思った。
だが、今更の逃げ道など、もう意味がない。
修一はくすりと笑った。身を離すと、心の底から湧き上がった笑みを浮かべる。
「俺の外側も内側も、全てを奏太で満たしてほしいんだ。……忘れていいと言ったのは、奏太だったろ? 忘れさせてくれ」
すり、と自分の下腹から胃のあたりまで、艶めかしい手つきで撫でる。
早く、ここを奏太に愛でられたくて仕方ない。
そういう仕草も思考も、以前なら怨嗟を吐くレベルで嫌っていたのに、相手が奏太だと思うとなんともない。
ふと、奏太が震えているのに気付いた。
アハハ、という、剣呑な笑い声を漏らししている。
「アハ、ッハハ、……まさか修くんが誘惑してくれるなんて思ってなかったよ……」
興奮の中に、どろどろの執着と愛情が混じり合ったような声だった。
(……ああ、奏太も、俺が欲しいと思ってくれているのか……!)
どこか空腹に似た感覚。それから歓喜。
ソファーから立ち上がった奏太に合わせるように立ち上がる。
奏太がエスコートのように手を差し出してきた。それを取る。
「アレックス、居間の電気消して」
『はい、リビングの照明を消灯します』
AIサービスの応答と暗くなった部屋を背に、二人は寝室のドアを閉めた。
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