menu.8 愛のふくらみパンケーキ(1)

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だがそれは、決して嫌なものとは感じなかった。 体も、心も、ついでに胃袋も、全て奏太に満たしてほしいと願ったから。 そういう思いが無意識に芽生えたのは、この部屋で唇を交わしてから。それが意識上で花開いたのは、たった今。 (奏太はきっと、俺を乱暴には扱わない。俺が本気で嫌がれば、手を止めてくれる……) そう自分に言い聞かせる。 奏太の思いや想定が自分と少し食い違っていたとしても、話し合いの場を設けたり、改善点を共に探ってくれると信じているから。 そして何より、愛情と食によって、青木の存在を殺してくれると信じている。 だから、体を起こした時点で、奏太に抱きついた。そして、キスで遮られた言葉の続きを告げる。 「……俺を……お前の隣においてくれ……」 一瞬訪れた静寂。 何か間違えただろうか、とひやりとした瞬間。 奏太の腕の力が強まった。 ぎゅっと抱き締めてくるその感触に、修一は一瞬面食らう。 ゆっくりと奏太が視線を合わせてきた。頬が色づき、目の色が少し変わっている。 「……嬉しいよ、修一くん」 ゆっくりと話し出した声音は、興奮が抑えきれないように震えていた。 奏太の嗜好にとっては造形美の頂点にいるような男が、自分の腕の中に収まっているのだから。 「俺、嬉しさと修一くん可愛さのあまり、ちょっと激しくしちゃうかもしれないけど、許してくれる?」 わざとらしい、おどけたような口ぶり。 だがそれは、奏太なりの逃げ道を示してくれたのだと修一は思った。 だが、今更の逃げ道など、もう意味がない。 修一はくすりと笑った。身を離すと、心の底から湧き上がった笑みを浮かべる。 「俺の外側も内側も、全てを奏太で満たしてほしいんだ。……忘れていいと言ったのは、奏太だったろ? 忘れさせてくれ」 すり、と自分の下腹から胃のあたりまで、艶めかしい手つきで撫でる。 早く、ここを奏太に愛でられたくて仕方ない。 そういう仕草も思考も、以前なら怨嗟を吐くレベルで嫌っていたのに、相手が奏太だと思うとなんともない。 ふと、奏太が震えているのに気付いた。 アハハ、という、剣呑な笑い声を漏らししている。 「アハ、ッハハ、……まさか修くんが誘惑してくれるなんて思ってなかったよ……」 興奮の中に、どろどろの執着と愛情が混じり合ったような声だった。 (……ああ、奏太も、俺が欲しいと思ってくれているのか……!) どこか空腹に似た感覚。それから歓喜。 ソファーから立ち上がった奏太に合わせるように立ち上がる。 奏太がエスコートのように手を差し出してきた。それを取る。 「アレックス、居間の電気消して」 『はい、リビングの照明を消灯します』 AIサービスの応答と暗くなった部屋を背に、二人は寝室のドアを閉めた。
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