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プロローグ いじめなんて許せない!
「お、お願いです…トイレに行かせてください…」
体育倉庫の中、痩せた少女は長い髪の頭を俯かせ、弱々しく懇願する。細い腕は足の間に伸ばされ、震える手はぎゅっと大事な箇所を握りしめていた。
だが、彼女と対峙する3人の、見るからに不良の外見をした少女達には、その懇願を聞く気はない。金髪の木村という少女が嘲笑する。
「トイレぇ? 生意気なんだよ! おもらし佐枝(さえだ)にはそんなもん必要ねえだろ」
「だよね〜。お前にお似合いなのって、トイレじゃなくてオムツじゃね?」
「キャハハ、それ言えてる〜! オムツ履けよオムツ!」
悔しさと尿意に震える少女は、ついに決壊した。足の間に生暖かいぬくもりが広がり、お尻全体を浸す。
「うわっ、こいつまた漏らしたー」
「くっせぇー!」
「ぐすっ……誰か、助けて……」
弱々しく助けを求める少女に、木村は吐き捨てた。
「誰も助けなんかしねえよ。きったねえおもらし女のお前のことなんて」
その通りだった。トイレに行こうとしたのを不良の木村達に無理矢理引っ張られている時、すれ違う人達に目で助けを求めたが、いじめに関わり合いになりたくない彼らは誰も助けようとしなかった。
『高校生にもなって、おもらしなんかするから悪いんだよ』
そんな残酷な声が聞こえてくるような目線すら、向けられた。
誰も、自分のことなんて……。
水溜りに涙が落ち、波紋を作った。その時だった。
「こらぁーーーーーーーーーーーー!!」
ショートボブと眼鏡の少女が怒鳴りながら戸を開ける。
「やべ、委員長だ! 逃げんぞ!」
「また佐枝さんをいじめてる! 本当最低ね! あんた達!」
「るっせーな合田(ごうだ)! いい子ぶってんじゃねえよ!!」
捨て台詞を吐きながらも木村達は逃げていく。後にはおもらし姿の少女、佐枝栞と、学級委員の合田真子が残された。
己の姿を恥じて俯く栞に、真子は嫌な顔ひとつせず近寄り、抱き締めた。
「探したんだよ。間に合わなかったね。ごめんね」
「委員長……うぅ……ありがとう……」
「いいのいいの。私、いじめなんて絶対に許せないんだから!」
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