2人が本棚に入れています
本棚に追加
私は永遠のお別れを幾度も繰り返しています。
私は繋いだ手の感覚を永遠のものにしようと、そっと目を瞑りました。
そして、この記憶を忘れないために死んでしまおうと思いました。視界が滲んでぼやけました。そして雫が線を描き、音を立てました。ぽたり。また、ぽたりと…。
*
*
*
*
*
*
*
*
*
…私は手の甲に温かく、柔らかい感覚が広がるのを感じました。そっと目を開けました。
片膝をついた川上優作がそこにはいました。彼は消えることなく、そこにいました。
「…ありがとう」
彼はそう言い、頬を夕日で赤く染めていました。
そして何度も私の心を射抜いた、その透き通る瞳が再び私を捉えました。
「もう君に寂しい思いなんかさせない。一生だ」
彼は言いました。
私は理解しました。彼の言葉を。私の愛を。全てを。
私は理解しました。私の望みを。理想を。夢を。
だから優作は消えなかったんだと…。
とたん、私の頬も夕日色に染まりました。
*
*
私は舟の上にいる彼を見ました。私は彼の手に引かれました。彼は私を舟の上に上手に引っ張り上げ、笑っていました。そして、雲が次第に流れていき、光の線が空に引かれました。やがて太陽が顔を覗かせました。
私の心の雨は止みました。でも私の温かい雨はとどまることを知りません。
「ねえ、優作」
そこは二人だけの世界です。
*
私たちは夕日の下、互いに見つめ合いました。
そして、永遠に海馬に刻まれるようなキスをしました。
*
*
*
*
*
『この手を離さないで』(完)
最初のコメントを投稿しよう!