食べる

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 俺と彼女はテーブル席に向かい合うようにして座った後、食券を店員に渡した。  しばらくすると、二杯のラーメンが運ばれてきた。ラーメンからは温かそうな湯気が立ち上っている。 「へい、おまち」  店員はそう言いながら、二つのどんぶりをテーブルの上に置く。  どんぶりが置かれるや否や、彼女はどんぶりの中に入っているラーメンに胡椒を振りかけ、 「いっただっきまーす!」  と満面の笑みを浮かべながら言った。うん、実に可愛らしい笑顔だ。  早速、箸を手に取り、麺をすするのかと思ったが、彼女は手にしなかった。  あれ? と思った次の瞬間――  麺が彼女の口に吸い寄せられるようにして昇っていった。 「な!?」 「どうしたの?」  吸い上げた麺を口の中でもぐもぐさせながら言う彼女。「どうしたの? じゃねーよ!」と言ってやりたかったが、俺の中でその欲求を抑える。 「何だ、その食べ方は?」  代わりにこう質問した。すると、彼女は 「ああ、この食べ方ね。AIの食べ方を真似してみたの」  と答えた。 「AIの真似?」 「そう。ラーメンを食べる人をAIに描かせると、箸を使わずに食べる人が描かれたりするでしょ? それを見て面白かったから、真似してみたの。そしたら、できちゃった」 「真似してみたって……簡単にできるのか?」 「できるわよ。あんたもやってみなよ」  そう言われて、俺は彼女の真似をしてみる。麺を寄せ付けるように息を吸って……  すると、麺が俺の口元まで空中を昇ってきた。まるで、天に向かって昇る龍のようだ。 「できた」 「でしょ」  一見、不可能に思えることでも、いざやってみれば、できることがあるものだと思った。  こうして、俺達はラーメンを平らげた。  店員達が驚いたような顔をしていた気がするが、俺達以外に客はいないし、気にしなくてもいいだろう。
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