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「皆、僕から離れるな」
涼真が部員を安心させようと、リーダーシップを発揮した。
「もし、管理人だったら、皆でしっかり謝ろう」
「部長の自分が全責任を取るって、言わないのかよ」
星冬は、連帯責任を目論む涼真に皮肉を言ったが、軽く無視された。
全員で固まって、慎重に廊下を歩く。
窓のガラスは外されて、板が打ち付けられている。
廊下の端に内階段があり、突き当たりの非常口は固く閉ざされている。
「この辺かな?」
人はいない。そうなると、超常現象となる。
全員で注意深く観察するが、異変は見つからない。
「何もないな」
「その辺のコンクリがたまたま落ちたとか」
コンクリートブロックがいくつも転がっているが、どれも簡単に動きそうにない。
「やっぱりラップ音だったのよ。幽霊って、私たちみたいな侵入者がいると、追い払おうと、わざと大きな音を立てて驚かすんだって」
季里乃がネットで拾った知識を偉そうに披露した。
結局、原因は分からず、一行はさっきの場所に戻って撮影を再開した。
「とにかく、オカルト部として、音が拾えただけでも良かったよ」
「貴重な休みを潰したかいがあったというもんだ。じゃあ、もう帰る?」
星冬は、面倒くさくなってきた。
「いや、まだだ。ラップ音がしたってことは、また何か起きるかもしれないじゃないか。オカルト部がこのチャンスを逃してどうする」
涼真は、続ける気満々で歩き続けている。その後をゾロゾロついて行く。
詩衣那の足取りが重くなってきて、距離が離れるようになった。羽沙が心配して立ち止まる。
「詩衣那、大丈夫? 足、痛いの?」
「うん、ちょっとだけ……」
コンクリート特有の冷気に体も冷えつつある。
「まだ体調が万全じゃないんでしょ。無理しない方がいいかも。休んでいる?」
「二人共、遅れるな!」
涼真は、足を止めた詩衣那と羽沙に注意した。
「厳しいわねえ」
「仕方ないよ。足手まといになりたくないし、頑張る」
二人は、再び歩き出した。
「同じ光景が続いて、どこにいるのかよく分からなくなった。今、何階?」
「4階だな」
草平が質問して、星冬が階段の壁に掲げられた四角いプレートの数字を読んで答えた。
「この団地、5階建てだっけ? もう少しで終わりか」
探索も終盤に近付きつつある。
5階に上がると、各戸を探索していく。
真ん中の部屋に一番に入った季里乃が、「みんな、ここに集まって!」と、何かを見つけて叫んだ。
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